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キーストーン病原体

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人体内部や体表に生息している微生物の大半は健康を脅かしてはいないが、その数がとめどなく増えると問題を生じるものが多い。そこで、免疫系はこうした常在菌をあちこちで刈り取り、数が増えすぎないようにしている。

だが微生物の中には、免疫系のこの活動を妨害して勢力均衡を自分に有利な形へとゆがめるものがある。歯周病の主犯とされるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が一例だ。この細菌が口の中に少数いるだけで、白血球は殺菌化学物質を作らなくなる。この結果、口中の微生物数が爆発的に増え(健康的な細菌叢に寄与していた微生物も含め)、歯肉炎として知られる障害を起こす。

口腔細菌学者George Hajishengallisが率いるペンシルベニア大学(米国フィラデルフィア)のチームは最近の2件の研究で、P. gingivalisの反乱の背後にあるメカニズムを解明した。その知見に基づき、あるシグナル物質をブロックすると口中の微生物叢が正常に回復することを、マウスを使った実験で発見した。

歯肉炎に対する標準的な処置は、歯科医による歯垢除去とデンタルフロスを用いた歯間清掃の徹底だ。これによって口中の細菌数は一時的に減るが、白血球の殺菌能力は回復しない。このため、歯科医でも炎症の再発をうまく防げない。研究チームは今回の発見が対処法につながる可能性があるとみている。

歯肉炎以外の慢性炎症性疾患もキーストーン病原体が原因になっているかもしれないとHajishengallisはいう。だが、その関連を特定するには、人間が何兆個もの微生物と共生するのを許している抑制と均衡をキーストーン細菌がどのように操っているのかについて、詳しく理解する必要がある。

翻訳:日経サイエンス編集部

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141206a