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ランドサット8号が引き継ぐ歴史

2013年1月6日、ランドサット5号が最後の仕事を終えて沈黙したとき、世界中の科学者がその死を悼んだ。多くの困難を乗り越えてきたこの衛星に、心からの感謝を捧げたのだった。1984年に打ち上げられたランドサット5号は、トラブル続きの後継機を尻目に、28年という記録破りの長期にわたって運用され、融解する氷河から燃える熱帯雨林まで、変わりゆく地球の画像を撮影し続けた。

1977年から2010年にかけて歴代のランドサット衛星が撮影した中央アジアのアラル海。かつては世界で4 番目に広い湖だったが、湖に流れ込む河川の流域の開発により、大幅に縮小してしまった。

Credit: USGS EROS DATA CENTER

1993年に打ち上げられたランドサット6号は軌道導入に失敗し、1999年に打ち上げられたランドサット7号は今日も運用されているが、データが部分的に欠損するようになり、燃料も尽きつつある。ランドサット5号の運用が終わった今、世界で最も長く続いている(そしておそらく最も影響力のある)地球観測データの収集は、2月にバンデンバーグ空軍基地(米国カリフォルニア州)から打ち上げられるランドサット8号に引き継がれることになる(最新情報は記事末の翻訳者註を参照)。

カーネギー研究所(カリフォルニア州スタンフォード)の生態学者で、ランドサットのデータを利用して熱帯森林の状態を追跡しているGreg Asnerは、「今度のランドサット8号は、NASAにとって、この10年間で最も重要な地球観測ミッションです」と言う。彼らはこの数年間、老朽化し、故障した2機の衛星をだましだまし使ってきたが、「我々はついに天空の目を取り戻すのです」とAsnerは言う。「この目は、非常に優れたものになるでしょう」。

1972年に打ち上げられた1号から、ランドサット衛星は地球上の土地被覆と土地利用の変化を記録できるように設計されていた。初期のランドサットは、いくつかの可視光周波数と近赤外周波数で画像を撮影しており、解像度はいずれも80mだった。ランドサット4号と5号になると、解像度は30mまで向上し、より波長の長い赤外線で観測できるようになって、土壌水分や植生の研究に役立った。ランドサット7号にはマルチスペクトルセンサーが追加され、解像度は15mになった。ランドサット・プログラムは、注意深い較正を通じて、最初の周波数での観測データを40年にわたって途切れることなく蓄積してきた。この期間は、地上の様子が大きく変化した時期と一致している。

ランドサット8号のミッションが決定したのは2002年のことだったが、実現に至るまでには紆余曲折があった。NASAが最初に考えていたのは、民間衛星からデータを購入するという方法だった。次に、ランドサットのセンサーを複数の極軌道衛星に分けて搭載する計画を提案した。そして、ジョージ・W・ブッシュ政権時代の2005年に、やはり独立の衛星が必要であるということになったのだ。この衛星の正式名称はLandsat Data Continuity Mission(ランドサットデータ連続性ミッション:LDCM)と決まった。

大型のジープほどの大きさで、8億5500万ドル(約810億円)を投じて製作されたランドサット8号は、高度約700kmの軌道で地球を周回する。この衛星に搭載されているセンサーの精度は、前の世代のものよりもさらに高い。ランドサット8号は、鏡を使って眼下の地形を走査して少数のセンサーにその信号を送る代わりに、1つの帯域幅当たり約7000個のセンサーを使って、地上の幅185kmの範囲を瞬間的にとらえることができる。これにより、各地点につき、より多くのデータと、より質の高い画像が得られる。NASAゴダード宇宙飛行センター(メリーランド州グリーンベルト)のプロジェクト科学者Jim Ironsは、「今回のデータは、地表の場所ごとの変化や時間を通じた変化を、従来よりもはるかに高い感度でとらえることになります」と言う。「モロコシ(トウモロコシに似たイネ科の一年草)とトウモロコシの区別や、カシとカエデの区別もできるようになるかもしれません」。

ランドサット8号は、歴代のランドサット衛星の中で初めて、海洋や大気中のエアロゾルの観測に特に有用な「ウルトラブルー」帯でデータを収集することになる。また、地球の気候に大きな影響を及ぼす巻雲(いわゆる「すじ雲」)への感度が高い短波赤外帯でのデータも、新たに収集する予定である。

ランドサットは、1号の時代から今日までに、イデオロギーと組織の大きな変化に耐えてきた。例えば、1980年代と1990年代には、米国議会の決定により、ランドサットとすべてのデータの運用が民間企業に委託されていた。画像は1枚当たり数千ドルの価格で販売されたため、これを入手して分析できるのは少数のエリート科学者だけになってしまった。しかし、2001年以降は再び政府が運用するようになり、2008年からは、このデータを監督する米国地質調査所がアーカイブを公開し、世界中の人々が無料で利用できるようになった。アクセス数は激増した。以前の画像の販売数は1年間に約1万5000枚だったが、現在の年間ダウンロード回数は平均約300万回である。

カナダ天然資源省林野部(ビクトリア)の研究者でランドサットの科学助言チームのメンバーであるMike Wulderは、「ランドサットはデータの民主主義を実現しました」と言う。「ランドサットのデータは、世界の資源なのです」。

ランドサットがもたらしたデータは、リモートセンシングの専門家の間にデジタル革命を引き起こし、彼らは、膨大な量のコンピューティング資源を活用し、地球の時間的・空間的変化の高解像度の記録をつなぎ合わせるためのツールを開発した。NASAの衛星「テラ」と「アクア」に搭載された中解像度撮像分光放射計(MODIS)など、ほかの衛星に搭載された観測装置は、一度により広い領域のスナップショットを撮ることができるが、解像度は格段に低い。

ランドサットを使えば、「狭い範囲(詳細に)でも非常に広い範囲でも、地理的にカバーできます。だからこそ、ランドサットは、土地被覆と土地利用の変化を監視する活動の最前線にあると言えるのです」とAsnerは言う。

ランドサット8号は、軌道投入から90日後に稼働し始める予定だが、最初の画像は3~4週間以内に届くことになっている。ランドサット5号はNASAの技術者がギネスブックに申請するほど長期にわたって活動したが、8号はそれほどまでは長生きできないかもしれない。Ironsは、長生きとは違った偉業をこの衛星が達成すると考えている。「70億人の人類全員が、このミッションから恩恵を受けることになると言っても過言ではないのです」。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130513

原文

Landsat 8 to the rescue
  • Nature (2013-02-07) | DOI: 10.1038/494013a
  • Jeff Tollefson
  • 翻訳者註:ランドサット8号は2013年2月11日に無事に打ち上げられ、3月18日には最初の画像が届いた。なお、2月10日にはランドサット5号が「世界で最も長く運用されている地球観測衛星」としてギネスに認定されている。