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アンドロメダ銀河で見つかった不思議な平面

アンドロメダ銀河の矮小伴銀河のおよそ半分は、薄い平面上にあり、アンドロメダ銀河の周りを同じ方向に回転している。この新事実をフランスのストラスブール大学付属ストラスブール天文台のRodrigo A. Ibataらの国際観測チームが発見し、Nature 2013年1月3日号62ページの論文で報告した1。Ibataらの発見は、銀河形成理論に新たな制限を加えるものであり、重要な意味を持っている。

Credit: ESA/Herschel/PACS & SPIRE Consortium, O. Krause, HSC, H. Linz

まず、観測された事実を述べよう。アンドロメダ銀河はM31とも呼ばれ、地球から約250万光年の距離にあり、私たちの銀河系(天の川銀河)に最も近い巨大銀河である。きわめて近くにあるため、カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(ハワイ・マウナケア山)を使った高感度撮影により、その伴銀河(衛星銀河)の調査が広範囲にわたって行われ、非常に暗い伴銀河に至るまで調べられた。近いので伴銀河との距離の測定も可能で、銀河を構成する星の速度も決定できた。このような完璧な調査は、天の川銀河では不可能だ。なぜなら、伴銀河候補天体が、天の川銀河そのものによって覆い隠される領域にあるかもしれないからである。また、ほかの巨大銀河では、遠すぎてこれほど詳細な調査はできない。

Ibataらは、M31から35~400キロパーセク(11万~130万光年、1パーセク=3.26光年)の距離にある27個の矮小伴銀河のうち、13個が厚さ13キロパーセク(kpc)の薄い平面の中にあって、規則的な速度パターンを持っていることを発見した。つまり、M31の北にある伴銀河は、M31に対して地球から遠ざかる方向に運動しており、一方、南にある伴銀河はM31に対して地球に近づく方向に運動している。これまでの銀河形成理論で、伴銀河がこんな運動をするなどという予言は1つもなかったはずだ。

さらに、私たちの天の川銀河も、この13個の伴銀河と同じ平面上に乗っている。この平面の発見は驚くべき成果だ。この不思議な構造について、Ibataらは、推測にすぎない記述をあえて避けている。今回の発見の意義が薄まるのを恐れたからだ。

M31の円盤は、伴銀河が作るこの平面から約50°傾いている。その一方で、M31自体の回転は、伴銀河の速度パターンと同じ方向を向いている。今回の調査領域よりさらに広い範囲を眺めてみると、M31から250~500kpcの所に3つの銀河(IC 1613、IC 10、LGS 3)がある。これらは高感度撮影が行われる前から知られていたが、これら3つも、すべて同じ平面にある。

これはたいへん興味深い事実といえる。これら3つの遠い銀河は、十分な星間ガスを含み、まだ星を形成しているので、最近になってM31の近くにやって来た銀河かもしれないからだ。Ibataらが調べた領域にある伴銀河はすべてガスに乏しく(今議論している平面上にないM33を除く)、標準的な銀河形成モデルによれば、M31の近くにやって来てからある程度時間が経っており、複雑な軌道を持っているはずなのだ。

しかし実態は、Ibataらが述べているよりもさらに奇妙だ。M31の残りの伴銀河は、M31よりも低い銀経にあるものと高い銀経にあるものに分かれ、両者の数はほぼ等しい。局部銀河群(天の川銀河やM31を含む銀河群)で3番目に大きい銀河であるM33を含め、M31よりも高い銀経にある伴銀河はすべて、別のもう1つの平面上にある。この2番目の平面は、M31を含む平面からずれていて、しかも約13°傾いている。

Ibataらは、「天の川銀河の伴銀河も、1つの平面内にあるらしい」という以前からの提案について触れている2,3。ケンタウルス座A(地球から1000万~1600万光年)を中心とする銀河群と、M81(おおぐま座にあり、地球から約1200万光年)を中心とする銀河群は、局部銀河群に2番目に近い銀河群だが、これらの伴銀河の分布を調べるために必要な情報が、すでにデータアーカイブにあるかもしれないと私は考えた。これらの銀河の周囲の領域は、伴銀河候補の調査観測とハッブル宇宙望遠鏡での追跡観測とで、綿密に調べられているからだ4,5

それによると、ケンタウルス座Aの場合、ケンタウルス座Aの中心から600kpc以内にある24個の伴銀河のうちの22個は、おおむね平行だが280kpcだけずれた2つの平面上にあり、それぞれにある伴銀河の数は等しい。ケンタウルス座A自身はこの2つの平面の1つに乗っている。ケンタウルス座Aの伴銀河の大半はガスが乏しいが、ガスを含む銀河も両方の平面にいくつかあり、そこでは星形成が起こっている。

M81銀河群での状況は、それほど明瞭ではないが、それでも示唆に富んでいる。M81銀河群の場合、ガスに乏しい伴銀河と、星形成が起こっているガスの豊富な伴銀河との間に、分布の違いが見られる。ガスに乏しい伴銀河は、60kpc×120kpcほどの平らな領域の中に分布していて、この領域の広がりは、大きな「ローカルシート」が広がる方向と一致している6。ローカルシートはこれまでに触れたすべての銀河を含む大きくて平らな構造であり、大きさは10メガパーセク(Mpc)もあるが、厚さは1Mpcにすぎない。一方、ガスが豊富な伴銀河は、典型的にはM81よりもさらに遠くにあり、それら自身でだいたい1つの平面を形作っている。

今回、Ibataらが規則的な運動をしている薄い平面を発見し、伴銀河が組織化された分布をとることが、確かな証拠によって裏付け遍的なものであることを示唆する証拠は複数ある。この問題はさらに掘り下げる価値があるが、これまで議論してきた300~500kpcの大きさの平面が、ローカルシートとおおむね平行である事実に注目すべきだ。ローカルシートは、物質のない巨大な空洞である「ローカルボイド」の壁を形成している。このローカルボイドは、付近の構造の発展に強く影響を及ぼしている6

Ibataらは、このような平面を形成した可能性のあるいくつかのシナリオについて、言及しているのみだ。銀河形成に関して、見つかっている伴銀河が理論的予想と比べて少ないという問題が以前からある。平面が存在するという今回の新情報は、この問題をさらに複雑にした7,8。今回の発見で、伴銀河の数が少ないだけでなく、実際に存在する伴銀河の多くが、こうした組織化された構造の中にあるらしいことがわかった。この薄い平面という構造が崩れていないことは、この構造が(その構成要素とはおそらく異なり)大昔からのものではないことを示している。

現在の銀河形成理論によると、物質(ガスとすでにでき上がった銀河の両方)は、フィラメントに沿う流れとして、密度の高い場所のハローの中へと落下し、その中の成長している銀河に物質を供給する。落下する物質の軌道角運動量は、時が経てば、ハローの中の支配的な銀河と同じ回転方向の運動を引き起こす傾向があり、その銀河の渦巻き状の円盤を増強していく。

新たに降着した伴銀河はみな同じ方向に回転しているはずだと考えるのは合理的だが、伴銀河は、軌道を数回、回れば、互いに散乱してごちゃ混ぜになる傾向がある。しかし、M31の周囲の落下している銀河は非常に薄い平面上にとどまっている。このため、降着してからそれほど時間が経っていないと考えられ、また、それほど寄り道はせずに短期間で中心の銀河に吸収されるとみられる。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130428

原文

Andromeda’s extended disk of dwarfs
  • Nature (2013-01-03) | DOI: 10.1038/493031a
  • R. Brent Tully
  • R. Brent Tullyは、米国ハワイ州ホノルルにあるハワイ大学天文学研究所に所属。

参考文献

  1. Ibata, R. A. et al. Nature 493, 62–65 (2013).
  2. Lynden-Bell, D. Mon. Not. R. Astron. Soc. 174, 695–710 (1976).
  3. Pawlowski, M. S., Pflamm-Altenburg, J. & Kroupa, P. Mon. Not. R. Astron. Soc. 423, 1109–1126 (2012).
  4. Karachentsev, I. D. et al. Astron. Astrophys. 385, 21–31 (2002).
  5. Chiboucas, K., Karachentsev, I. D. & Tully, R. B. Astron. J. 137, 3009–3037 (2009).
  6. Tully, R. B. et al. Astrophys. J. 676, 184–205 (2008).
  7. Klypin, A., Kravtsov, A. V., Valenzuela, O. & Prada, F. Astrophys. J. 522, 82–92 (1999).
  8. Moore, B. et al. Astrophys. J. 524, L19–L22 (1999).