News

1個の細胞から、ゲノム塩基配列を読み取る

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130302

原文:Nature (2012-12-20) | doi: 10.1038/nature.2012.12088 | Method offers DNA blueprint of a single human cell

Monya Baker

新しいDNA塩基配列読み取り法が登場した。個々の細胞どうしのDNA比較が簡単にできるようになれば、がんやそのほかの生物過程に関する手がかりが得られるはずだ。

ヒトやイチゴ、ミツバチ、ニワトリ、ラットなど多くの生物でゲノムのDNA塩基配列が解読されている。しかし、1つの生物種のゲノム塩基配列を読み取ることは、今もって容易ではない。したがって、細胞1個のDNA塩基配列の読み取りとなればなおさらのことだ。

Credit: THINKSTOCK

塩基配列を読み取るには十分な量のDNAが必要であり、普通、数千個から数百万個もの細胞を用意する。そのため、どの変異がどの細胞に由来するかを特定するのはほとんど不可能だし、がん化初期の細胞など、わずか2、3個の細胞にしか存在しない変異を探そうとしても、全体に隠されてしまって全く検出できない。

しかし、最近のScienceに報告されたDNAコピー法1を使うと、細胞1個のゲノム塩基配列の90%以上まで読み取ることができるという。したがって、1個の細胞にある小規模なDNA配列の変動も従来より簡単に検出でき、個々の細胞を比較して遺伝的な違いを見つけることも可能になるだろう。こうした細胞ごとの違いは、がんの悪性化や生殖細胞の発生などのメカニズムの解明に役立つはずだ。

細胞1個の塩基配列を読み取るには、まず、PCR法などを使ってDNAのコピーを多数作る必要がある。しかし、こうした手法の問題は、ゲノム全体を均一に増幅できないことだ。つまり、一部の配列が、何倍も多くコピーされてしまうのだ。この問題は「増幅バイアス」と呼ばれている。その結果、コピー量の非常に少ないゲノム領域は、コピー量の多い領域にかき消されて検出不能になる。実際、単一細胞からの全ゲノム解析を試みた研究例を調べてみると、最大でも約70%しかカバーできておらず、普通は40%程度でしかないのだ。

しかし今回、ハーバード大学(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の化学生物学者Sunney Xieのチームが、1個のヒト細胞のゲノムのうち93%を読み取ることのできる手法を開発した。これはMALBAC法(multiple annealing and looping-based amplification cycle:多重アニーリングおよびループ化による増幅サイクル法)と命名された。この手法でも、まずは1個の細胞からDNAを単離する。次に、プライマーと呼ばれる短鎖DNA分子を加える。プライマーはゲノムDNAの任意部分と結合できる相補配列を持っており、DNA鎖に結合してDNA複製起点として働く。

MALBAC法のプライマー分子は、2つの部分からできている。1つが今述べた結合部分で、8個の塩基からなる。この結合相補配列はさまざまなものが用意され、ゲノムDNAと幅広く細かく結合するようになっている。もう1つは、すべてのプライマーに共通な27塩基からなる部分である。この共通配列のおかげで、コピー過程でDNAがループ状に形を変えてしまい、その結果、何度もコピーされずにすむ訳だ。こうして増幅バイアスが格段に小さくなる。

お手軽なレシピ

「MALBAC法は重要な多くの疑問を解明するのに役立ってくれるでしょう」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)で遺伝子調節を研究しているBing Renは話す。例えば、変異がどのくらいのスピードで蓄積するかを調べたり、1つの細胞集団全体で遺伝子コピー数の変動や染色体異常を見つけ出すために使えるだろう。さらに、この方法はゲノム塩基配列を広くカバーできるので、変異自体を探索して見つけ出すのにも有効であろう。

「この技術はすぐに使われるようになると思います」と、ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院(米国フィラデルフィア)で単一細胞遺伝学を研究しているJames Eberwineは言う。ただし、プライマーとゲノムDNAの比率など、実験条件をより適したものにするための微調整は必要かもしれない、と言い添えた。

ところで、MALBAC法はゲノムのカバー率は大きいが、だからといって完璧という訳ではない。この方法でも多分、一塩基変異のうちの3分の1がまだ見落とされていると思われる。しかも、DNAをコピーするための酵素が間違いを起こしやすいため、コピーする過程で新たな変異が導入されてしまう可能性もある。

今回の研究では、Xieは誤検出をすべて排除できたとしている。具体的には、ごく近縁な3個の細胞それぞれのゲノム配列を解読して、それらを比較することで、誤検出を取り除いたのである。しかし、このやり方だとコストが膨れ上がり、一部の組織試料では実行不可能になるかもしれない、とMDアンダーソンがんセンター(米国テキサス州ヒューストン)のNicholas Navinは指摘する。彼もまた独自の単一細胞配列解読法を開発しているのだ。

(翻訳:船田晶子、要約:編集部)

参考文献

  1. Zong, C., Lu, S., Chapman, A. R. & Xie, X. S. Science 338, 1622–1626 (2012).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度