活用事例・取り組み - サイエンス・エンジェル座談会 02

「真の青色」のキクが誕生!

本コンテンツは、それぞれ専門分野の異なる東北大学サイエンス・エンジェルの皆さんが、Nature ダイジェスト を読んで感じたことや疑問に思ったこと、結果の重要性などを自由に話し合う場です。第2回目となる今回は「真の青色の菊」について議論していただきました。

Nature ダイジェスト 対象記事

「真の青色」のキクが誕生!

2種類の遺伝子を導入することで、本当に青い花色のキクが開発された。

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171004
原文:Nature (2017-07-26) | doi: 10.1038/nature.2017.22365 | ‘True blue’ chrysanthemum flowers produced with genetic engineering

今回ご登場いただくエンジェルの皆さん

亀田 麻衣
理学研究科
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野田 千暁
環境科学研究科
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菅原 佑衣
農学研究科
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髙橋 沙季
生命科学研究科
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三浦 佳奈
生命科学研究科
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真の青色の菊とは?青色の花を作るのは「不可能」から「夢かなう」に

亀田: 見慣れた⻩色とか赤紫⾊の菊は「墓前の花」というイメージが強かったけど、この記事の真の青色の菊は菊っぽくないですよね。「きれい!これが本当に菊の花なの?」と、菊のイメージがちょっと変わりました。

三浦: 今まで遺伝子組換えで作られた青い花は真っ青というより紫色という印象が強い気がするけど、それに対してこの青い菊は本当に青色だなぁ、って写真を見て思った。

菅原: でも「真の青色」って言っているけど、何が「真」で何が「真でない」のだろう?

野田: 本文では「キクの花色を吸収波長を測定するなどの方法で調べ、これが真の青色であることを確認した」とあるから、花弁に光を当てた際に青色に見える範囲の波長の光を反射して、私たちの目に「青」と映るということを確認したのかな。植物は光合成を通じて太陽光を用いて化学反応を起こしているけど、私は可視光を用いて化学反応を起こす光触媒の研究を行っているので、光を相手にする場合に「色」は重要な要素だっていうのはわかります。

高橋: この記事の論文の原文も読んでみたんだけど、野生型であるピンク色から紫色、青紫色から真の青色まで、きれいな菊の写真が並べられていたの。そうやって真の青色にたどり着くまでが、大変だったんだろうなぁ…。

野田: カンパニュラの遺伝子を導入して、たった一つの水酸基(-OH)が付加されただけでピンク色から青紫色に花の色が変わるというのにまずは驚きです。そしてチョウマメの遺伝子を加えることで真の青色にたどり着くなんてすごいですね。でも、そもそもなんですが、どうして「青色の花」を創る必要があったのでしょう?

亀田: 本文に「消費者は目新しいものが好きです」とある通り、これまでなかった色・新しいイメージの花は売れるから?

高橋: 昔の流行歌で「赤いスイートピー」というタイトルの歌があるけど、あの歌が発表された段階では、花弁が真っ赤なスイートピーはなかったって聞いたことがある。歌がヒットして「真っ赤なスイートピーがほしい」って人が増えたから、開発されてお店で売られるようになったとか。

菅原: そもそも「青い」花を作るのって、どれだけ難しいことなんだろう?

三浦: 植物の品種改良の多くは「交配」によって作られているんだけど、今回の菊のように、もともと青色の色素遺伝子を持っていない花同士を交配しても青色の花を作ることはできないんだよね。

高橋: かつて、青いバラの花言葉は「不可能」だった。そこからも、難しいことだったというのは伝わってくるね。

三浦: そう、バラも元々青い遺伝子を持っていなくて交配で青いバラを作ることができなかったんだけど、パンジーから取った青色色素遺伝子を導入して、青いバラが作り出すことができた。それ以来、青いバラの花言葉も「夢かなう」に変わったとか。

花・植物の遺伝子組換えってどうやってするの?何が難しい?

菅原: 遺伝子組換えで植物の品種改良をするのって、具体的にどんな操作をするの?

高橋: アグロバクテリウムという土壌細菌に目的の遺伝子を入れて植物に感染させることで、植物に目的の遺伝子を導入できるんだよ。このアグロバクテリウム、自然界では土の中に存在していて、植物の根にくっついてこぶを作り、そこで栄養を吸収するというもの。そうやって植物に入り込んで植物の細胞・遺伝子に働きかけやすいっていう性質をうまく使っているんだ。

三浦: そうそう。アグロバクテリウムを使った遺伝子組み換え植物を作る方法としては、分化していない細胞にアグロバクテリウムを感染させて遺伝子組み換えを起こしてから、その細胞を培養して植物の形まで育てる方法や、もっと簡単に植物の花のつぼみにアグロバクテリウムを感染させ、種子を形成させるっていう方法などもある。

亀田: 遺伝子組換えってもっと大変なのかと思っていたけど、意外と簡単そう?

三浦: 確かに手技としては、そんなに難しくないかも。それに、交配と比べると品種改良にかかる期間も短くて済む。ただ、植物種によって、遺伝子導入が難しかったり、効率が悪かったりする場合も多いから必ずしも簡単とは言えないかも…。

亀田: 花の色を変えるために遺伝子を操作しているけれども、こういうことって倫理的には問題はないの?

高橋: 遺伝子組み換え技術をつかった植物は規制が厳しいよ。自然の動植物や微生物に害を与えないことが、きちんと確認されていないと認可が通らない。私はアブラナ科の植物を使って、自分自身の花粉を受粉するかしないかという「自家不和合性」という性質がどのように起こっているのかを研究しているんだけど、アブラナ科の植物って白菜やブロッコリーなど食用になるものも多い。だから、研究室での研究・開発から実際の商品として売れるようにするまでのプロセスってどうなっているのか、結構気になる。

三浦: 遺伝子組換え技術をつかった植物を商品として売り出すには、国内で生産・販売しても自然の生物に影響しないことを証明しなくてはならない。2009年に発売開始された青いバラも、認可されるまで長い時間がかかったって聞いたことがあるよ。青いバラの花粉を野生バラに受粉させるといった実験を経て、導入した遺伝子が自然界の中に広がる心配がないかを実証するために4年もの時間がかかったとか。

亀田: うわぁ、すごい時間がかかるものなのですね…。私はアモルファスというランダムに原⼦が並んだ物質について主にコンピュータでプログラミングをして理論計算をしているけど、今回の記事のような植物の遺伝子組み換えの研究でも、実際に実験を行う前にコンピュータで遺伝子組み換えの結果や影響をシミュレーションすることができたら、安全性を確認しながら実験を効率よく進めることができるかも。

花の色を変える研究はどんな社会を創る?

野田: この記事を読んだだけでは、青色の花を創る意義がいまいちピンとこないですね。「花卉市場に応用可能なだけでなく人工色素の持続可能な製造にもつながる可能性がある」とあるけれど、このような研究が進んだら具体的に私たちの身の回りで、どんなことが起こるのだろう?

亀田: 今回の研究は観賞用の菊だったけれど、食用の菊もカラフルにならないかな。インスタ映えしそう!

高橋: 食品の研究にも応用されるのかな。アントシアニンなどの色素は機能性を示すとも言われているから、開発された花から色素の成分を抽出することができたら様々な食品にも利用ができそう。ある栄養素をたくさん作るように遺伝子を組み替えた植物なども現在多く研究されているので、そういうところと関係していくのかなぁ。

三浦: 今は合成着色料が使われているところも多いけれども、このような品種改良が進めば植物由来の色素がもっと増えていくんじゃないかな。

野田: 今後多彩な植物・果実が出てくると、イチゴといったら「赤」といった固定概念がなくなって、世の中がとてもカラフルになりそう。遺伝子操作がより身近になって、抵抗が減っていくような気がする。アメリカに住んでいた頃に、外側が青色で切ってみると内部が紫と茶色というケーキを見かけて「身体に悪そう…」と思ったけど、今後、植物由来の色素の種類が増えることでカラフルなケーキでも「身体に悪い」と感じにくくなっちゃうかも。

菅原: 私はアルツハイマー病について研究していて、動物細胞での遺伝子導入はよく行う手法だけど、今回の記事のようにいろんな酵素の組み合わせで色を作り出すということを動物細胞でも出来たらいいな。これまでにない様々な色の動物が登場するようになるかも。面白そう!

亀田: それは楽しそうな反面、植物でも動物でも、人間の好きなように自然を変えることはちょっとどうなのかな、とも思うかも。

三浦: 今回の記事はまさに「こんな植物を作りたい」という人間の夢を実現する、不可能を可能にする研究だよね。私の研究でも同じように植物を用いているけど、人間の夢を実現するというよりは「植物ってこんな仕組みで環境に適応してきたのかな?」という進化の仮説を解明する基礎的な研究。不可能を可能にするというわけではないけど、植物の巧みな生存戦略の解明が進めばその知見を品種改良に生かすこともできるんじゃないかなと思います。どんな分野においてもそうなんだろうけど、地道な研究の一歩一歩が、「不可能」から「夢かなう」への道のりになっているのだろうね。

今回のエンジェルさん プロフィール

亀田 麻衣

研究科:理学研究科
研究キーワード:スピントロニクス、アモルファス、コンピュータシミュレーション
研究内容・自己紹介:電⼦が持つ”電荷”と”スピン”という性質を両⽅フル活用して便利なデバイスの実現を目指す、スピントロニクスという分野の研究室にいます。普段はコンピュータでプログラミングをして理論計算をしています。特にアモルファスというランダムに原子が並んだ物質について研究をしています。
趣味は運動、読書、洋楽を聴くことです。シーア、リアーナなどのソウルフルな歌声が好きです。休⽇にぶらっとカフェに⾏って気分転換するのも好きです。

野田 千暁

研究科:環境科学研究科
研究キーワード:光触媒、半導体、環境浄化
研究内容・自己紹介:代表的な光触媒である酸化チタンは紫外光を吸収して空気や水の浄化・防汚・抗菌といった機能を示します。ここで、酸化チタンに他元素を添加したり、他の化合物と複合化すると可視光領域でも機能を示すようになります。様々な組み合わせを検討し、より光触媒活性の高い材料を目指しています。
新しいことに挑戦することが大好きです。最近はランニングにはまっており、先日初フルマラソンに挑戦し、完走しました。趣味は旅行で、自分の世界を広げていくのが楽しくて好きです。

菅原 佑衣

研究科:農学研究科
研究キーワード:アルツハイマー病、Tau、神経疾患
研究内容・自己紹介:アルツハイマー病は、最初の症例が報告されてから100年以上経った現在でも治療薬が出来ていません。これは、アルツハイマー病の原因が分かっていないためです。私は、Pin1という酵素がアルツハイマー病患者の脳において不活性化しているという報告から、発症メカニズムの解明を目標にPin1の研究を行っています。
音楽が大好きで、小学校の頃からクラシックピアノを弾いています。大学では、メタル・ロックのサークルに入り、バンド活動をしています。

髙橋 沙季

研究科:生命科学研究科
研究キーワード:分子遺伝学・植物・自家不和合性
研究内容・自己紹介:私が行っている研究は、アブラナ科植物を用いた自家不和合性についての研究です。アブラナ科とは菜の花、キャベツなどの見慣れた植物で、自家不和合性とは「両性花において自己花粉では受粉できず、種子の形成には他個体由来の花粉を必要とする」という意味です。つまり、菜の花などのアブラナ科の植物はどうやって自分の花粉を識別し、受粉しているのかを研究しています。
女性アイドルがとても好きで、よく鼻歌を歌っています。特技は、その場と状況に応じたBGMを口ずさむことができることです。

三浦 佳奈

研究科:生命科学研究科
研究キーワード:植物、遺伝子
研究内容・自己紹介:修士課程では花の形(がく・花びら・おしべ・めしべ)を決める遺伝子について研究していました。春先に咲くムスカリという花の形について遺伝子を調べました。現在は、植物がどのように紫外線から身を守っているのかについて研究しています。植物は人間が持っていないDNA修復酵素を持っていて、紫外線によってできたDNAの傷を治しています。
趣味でも植物を育てるのが好きで、家で草花や野菜などを育てています。

東北大学サイエンス・エンジェルとは

サイエンスエンジェルス

東北大学サイエンス・エンジェル(SA)とは次世代の研究者を目指す中高校生に「女性研究者ってかっこいい!」、「理系進学って楽しい!」という思いを伝える為に結集した、東北大学の自然科学系女子大学院生です。女性研究者のロールモデルとしてセミナーやイベントに参加し、科学の魅力・研究のおもしろさを伝えています。普段は宇宙・自然・ロボット・環境・ヒトや動物の身体のしくみなど、それぞれの専門分野で日々研究をしています。

東北大学サイエンス・エンジェルの詳細や活動については東北大学男女共同参画推進センターのウェブサイトをご覧ください。

本コンテンツは、それぞれ専門分野の異なる東北大学サイエンス・エンジェルの皆さんが、Nature ダイジェスト を読んで感じたことや疑問に思ったこと、結果の重要性などを自由に話し合う場です。ひとつの記事を異なる着眼点で読み解いてゆく彼女たちの議論から、読者の皆さまにも新しい発見と興味を持って記事をお楽しみいただければと思います。
「サイエンス・エンジェル座談会」は、あくまでも個人的な感想や意見を交換する場であり、専門的な見地からの記事の検証や、解説・補足を行うものではありません。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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