In your element

1度に1個しか作れないフレロビウム

Nature Chemistry 5, 636 (号) | doi:10.1038/nchem.1688

114番元素フレロビウム(Fl)の研究が徐々に進み、Flが同族元素と全く異なる意外な性質を持つことが明らかになりつつある。マッセイ大学のPeter SchwerdtfegerがFlの研究について解説する。

Peter Schwerdtfeger

Credit: RIA NOVOSTI / ALAMY

天然に存在する元素の中で最も原子番号の大きいものは94番元素プルトニウム(Pu)である。Puは地球創生時から存在しており、バストネサイトという鉱物から寿命の長いPuがごく微量発見されている。一方、Puより原子番号の大きい95番以降の元素は全て人工元素であり、研究所で核融合反応によって作られる。そうした人工元素の最近の例として、2004年にドゥブナ合同原子核研究所(ロシア)とローレンス・リバモア国立研究所(米国)の共同研究チームによって発見された114番元素フレロビウム(Fl)がある。

114番元素の4つの同位体(質量数286~289)は、重イオンサイクロトロンで加速した48CaイオンビームをPu標的またはキュリウム(Cm)標的に衝突させる核融合反応によって合成された。2011年、国際純正・応用化学連合(IUPAC)は、114番元素をドゥブナのフレロフ原子核反応研究所にちなんで「フレロビウム と命名することを承認した。ちなみにこの研究所の名前は、その創設者で、自発核分裂を発見した著名なロシア人原子核物理学者Georgii Nikolajevich Flerov(写真)に由来している。こうしてFlは、炭素(C)から始まり鉛(Pb)で終わっていた14族の最後のメンバーとして周期表に加わることとなった。

Flは核電荷が非常に大きいエキゾチック超重元素であり、数か月にわたる核融合反応で1度に1原子しか作ることができない。しかも、時間をかけて合成したFlは、数秒で核崩壊してしまう。だが、Flはいくつかの点で非常に興味深い。まず、陽子数が上限に近い核物質を理解するのに役立つ可能性がある。また、特定の陽子・中性子範囲に安定な原子核が存在する「安定の島」と呼ばれる領域が予測されており、そうした領域の探索にも役立つと考えられる。

化学でおなじみの電子殻と同じように、原子核も陽子殻と中性子殻で構成されている。特定数の陽子または中性子によって殻が完全に満たされると原子核は特に安定となり、このときの陽子数や中性子数を「魔法数」と呼ぶ。40年以上前から、陽子はZ = 114で、中性子はN = 184で閉殻になると予測されてきた。しかし、中性子の魔法数はほとんどの科学者が合意するところだが、陽子の魔法数は利用する原子核構造モデルによって大きく左右されてしまう。

電子構造とは異なり、核子間の強い相互作用は正確にモデル化することが難しく、Z = 114以外に、Z = 120、122、126でも閉殻となることが予測されている。従って、こうした原子核モデルを改良するためには、超重元素の放射性崩壊特性を正確に調べる必要がある。現在知られている中で最も中性子の多いFl同位体は、114個の陽子と175個の中性子を持つ289Flだが、中性子閉殻となるには中性子が9個足りず、これらの中性子を原子核に取り込ませる方法もよく分かっていない。

Flは数秒で核崩壊する上、1度に1個しか作ることができないが、それでも化学的性質を調べることは可能だ。しかしながら、そうした化学技術の最先端を行く実験を計画するには、超重元素の化学的挙動に関する知識が必要になってくる。それを踏まえると、シュレディンガー方程式の代わりにディラック方程式を使う現代の相対論的量子化学的手法は、Flの反応性を調べるまさに理想的な手段といえよう。

故Kenneth Pitzer は1975年にすでに、114番元素では相対論的効果が強く、電子殻は閉殻になるだろうと指摘していた。つまり、スピン軌道結合効果が大きいために7p3/2殻と7p1/2殻が大きく分離し(300 kJ mol−1以上)、Flは7s2(7p1/2)2閉殻配置をとるようになる。そのため、意外なようだがFlは揮発性であり化学的に不活性であると予想されている。さらにPitzerは、同じく14族元素であるPbやスズ(Sn)とは異なり、114番元素が室温で気体となる可能性があることも示唆した。

だが、単純な原子特性からバルクの現象を常に予測できるわけではない。我々のグループが行った固体計算から、最近、意外な結果が得られている。バルクの金属Fl中の原子は弱く結合しているだけであり、その結合力は水銀(Hg)より弱く、キセノン(Xe)より強いというものだ(凝集エネルギーはFl、Hg、Xeの順に、50、75、16 kJ mol−1)。つまり、FlはHgのように室温で金属液体である可能性もあるのだ。さらに、7s軌道は相対論的効果によって安定化され、化学的に不活性になる可能性がある。

Heinz Gäggelerらは、金表面における112Cnと114Flの吸着を調べた。この実験でFl原子が検出されたのはまだ3回だけだが、その結果からは、Flが金属的でありながら希ガスのように振る舞う気体であることが示唆された。しかし、結果はまだ最終的なものではなく、確認実験が進められている。Flの化学は今後一体どう展開していくのか。意外な結果を期待しよう。

著者紹介

PETER SCHWERDTFEGERはマッセイ大学オークランド校ニュージーランド高等研究所 (New Zealand Institute for Advanced Studies: NZIAS)に所属。

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