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大気科学:2020年のメタン増加を説明する湿地からの放出と大気シンクの変化

Nature 612, 7940 doi: 10.1038/s41586-022-05447-w

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウンの期間に人為起源のメタン排出が減少した可能性があるにもかかわらず、2020年の大気中のメタン増加は、15.1 ± 0.4 ppb yr−1という異常に高い速度に達した。今回我々は、2019年と比べた2020年のメタンの生成源と大気シンクの変化を定量化した。その結果、全球的に、人為起源のメタン総排出量が年間1.2 ± 0.1テラグラム(Tg CH4 yr−1)減少し、火災による放出が6.5 ± 0.1 Tg CH4 yr−1減少したが、湿地からの放出が6.0 ± 2.3 Tg CH4 yr−1増加したことが見いだされた。対流圏のOH濃度は、主としてパンデミックによるロックダウン期間において人為起源の窒素酸化物(NOx)排出量が少なく、それに伴って自由対流圏オゾンが少なくなった結果、2019年と比べて1.6 ± 0.2%低下していた。さらに、大気の逆解析からは、全球の総放出量が、2019年と比べて2020年に6.9 ± 2.1 Tg CH4 yr−1増加し、OHとの反応による全球のメタン除去量が7.5 ± 0.8 Tg CH4 yr−1減少したと推測された。従って我々は、2019年と比べた2020年のメタン増加速度の異常は、OHシンクが小さく(53 ± 10%)、主に湿地からの天然の放出が多かった(47 ± 16%)ことが原因であると考える。これまでの知見と一致して、今回の結果は、湿地からのメタン放出は気候の温暖化や湿潤化に敏感であり、将来正のフィードバック機構として働く可能性があることを示唆している。また今回の研究は、世界的な人為起源のメタン排出量削減公約を実施する際には、窒素酸化物排出量の傾向を考慮に入れる必要があることも示唆している。

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