民間企業の委託研究にひそむ危険と可能性について、Robin Mejia氏の報告
2008年6月26日
Robin Mejia
Nature 453, 1138-1139 (18 June 2008) | 10.1038/nj7198-1138a
1997年、Tyrone Hayes氏は、ノバルティス社の委託研究に従事することに同意した。しかし、それについては懸念がないではなかった。カリフォルニア大学バークレイ校で両生類の研究をしていた同氏だったが、かりに企業にとって望ましい結果が出てしまった場合、「賄賂をうけとった」と勘繰られるのではないか、と恐れたのだ。
ところがいざ蓋を開けてみると、取り越し苦労もいいところだった。Hayes氏は、ワシントン州ファーンデールに拠点を置く環境コンサルティング会社であるエコリスクを介して、ノバルティス(現シンジェンタ)と契約を結んだ。研究内容は、除草剤に広く使用されるアトラジンがカエルのホルモン系に及ぼす影響、というものだった。意外なことに、この薬物が1 ppbという低い曝露量(米環境保護局(EPA)が米国の飲料水に認めている3 ppbの3分の1)で、オスのカエルの喉頭の発育に影響を及ぼす可能性があることが判明したのである。
「私の研究は、スポンサーにとって面白くない結果になってしまった。」とHayes氏は言う。その後、同氏は別の問題に直面した。研究成果の発表を承認する権利はエコリスクに付与する、という契約を同社と結んでいたのだ。
Hayes氏によれば、エコリスクは実験をやり直すよう要求してきたものの、資金は提供してくれなかった。エコリスク本社と接触しようと試みたが、失敗に終わった。ラボックにあるテキサス工科大学の毒物学者で、エコリスクの委員会の委員長だったRonald Kendall氏にも当然、接触することはできなかったが、Kendall氏はいちはやく、エコリスクはデータを操作しようとしている、というHayes 氏の主張を退けている。「結局、私はまるで世間知らずだったわけだ。」とはHayes氏の弁だが、一方で当時はまだ、産業界と契約して仕事を請け負う生物学者は珍しい存在だった、とも言う。その後Hayes氏、エコリスク、ノバルティス間の争いはメディアの注目するところとなり、大論争を巻き起こすにいたった。
Robin Mejia is a freelance journalist based in Santa Cruz, California