Nature Careers 特集記事

米国の大学は研究者の給与にもう少し投資すべき

2008年6月19日

Gene Russo
Naturejobs editor

Nature 453, 953 (11 June 2008) | 10.1038/nj7197-953a

先週、米国の理工系研究のやっかいな動向に関する報告書が発表された。米国芸術科学アカデミーが主唱した報告書「理工系分野の研究推進(ARISE)」は、大学や政府は若手教職員をもっとサポートすべきだ、ハイリスク・ハイリターンの研究をもっと奨励すべきだと、耳慣れた文句のように聞こえる。具体的な提言としては、若手教職員に複数年の特典を与える、社内指導教育プログラムを強化する、昇進や身分に関する方針を再検討する、グラント審査担当役員への投資額を増やす、などがある。

ところが、この種の大半の報告書とは異なり、ARISEは政府によるこれ以上の助成金拠出を求めていないのである。米ハワード・ヒューズ医療研究所所長でこの報告書の作成をサポートした委員会の委員長を務めるTom Cech氏は、ARISEの議論の中心は助成金の投入よりも改善の「方法と仕組み」だと言う。米議会にこの報告書を深刻に受け止めてもらいたいと委員会が考えているのであれば、これは賢明な動きである。一方、議員は解決策として単に助成金を増額する提言ばかりを受け取るきらいがある。

また、Cech氏は委員会の「最も大胆な提言」と呼んでいるが、この報告書では、大学は研究者がほぼ全面的に政府の助成金に頼らざるを得ないような状況を作るのではなく、教職員に支払う給与の割合をもっと増やすべきだとしている。これは多くの大学経営者から見ると異端的な考えになるかもしれないが、そうすることで若手研究者は極めて競争が激しい連邦政府の助成金に頼らずに済むことになる。

さらに、これはもっと実用的な計画を立案する際のインセンティブになり得るものである。フロリダ州では、地方や州の助成金が多くの生命科学分野のイニシアティブの火付け役になっている。フロリダ州政府は、新規雇用の若い教職員が複数年の若手研究者支援パッケージ終了後は連邦政府の助成金で自立してくれることを期待している(Nature 449, 371; 2007参照)。今の流れを考えると、これは財布の紐が切れたら多くの優秀な科学者が苦闘することに他ならない。大学や研究機関は、その給与コストをどこまで率先して盛り込むかについて考え直したほうが賢明だろう。ARISEで最も異端的であるのは、真剣に検討するに値する考え方だということである。

「特集記事」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度