高齢科学者の貢献や彼らに対する差別について考える
2008年6月5日
Gene Russo
Naturejobs editor
Nature 453, 693 (28 May 2008) | 10.1038/nj7195-693a
高齢化やピペットを扱う技量の衰えはあるものの、確かな科学的貢献を続けている博識な高齢科学者の役割はどうあるべきなのか。高齢科学者は財産であるのか、それとも頭脳明晰な若者を新規雇用する際の障害となるのか。
英国、ケンブリッジ大学の発生生物学者のPeter Lawrence氏(66歳)は、今週号の論説(588ページ)で、ハエの遺伝学者Seymour Benzer氏の長きにわたるキャリアや、ノーベル生理学・医学賞を受賞したSydney Brenner氏(80歳)の功績を引き合いに出し、断固として高齢科学者を擁護している。Brenner氏については、米国ハワード・ヒューズ医学研究所がバージニア州アッシュバーンに設立した複合研究施設ジャネリア・ファーム研究所で採用されることが決まったばかりである。
またLawrence氏は、多くの大学やヨーロッパの政府機関が採用している定年退職制度を批判している。それは差別的だというだけでなく、大学院生との関わりを妨げ、交渉力も弱めてしまうという。科学者に雇用延長を申請することを認めている研究機関もある。例えば、ドイツの慈善基金は定年退職を迎えた優秀な科学者には資金提供を継続するという特別プログラムを開始している(Nature 445, 334–335; 2007参照)。一方、米国には、定年退職制度を禁止する法律があることから、長年「高齢者の頭脳流入」の恩恵に浴している。大西洋の向こう側に心惹かれる熟達した科学者たちは、多くの大学の名声を高めるのに貢献している。
しかし、能力のない高齢科学者は長い間のらりくらりと過ごすことになるのではないか。高齢科学者をそのまま雇用していれば、アメリカのような国ではすでに助成金を得るのが困難な若年科学者にとっては、資金面でも大学で地位を得るのも難しくなってくる。この点については、Laurence氏は簡単に片づけているが。
ただ、同氏は議論を呼びそうな改善措置を提案している。つまり、退職年金をもらっている科学者は給与補助しか受け取れないようにする、在職期間には期限を設ける、科学者を貢献度に応じて定期評価する、基準に達していない場合には退職を求める、というものである。しかし、結局は各個人の判断――研究所への苦しい旅を続けるべきか、それとも甘んじて次世代に地位を譲るべきか?――に委ねるしかないのだろう。