インドで科学をやるのは難しい
2008年2月7日
Gene Russo
Naturejobs editor
Nature 451, 601 (30 January 2008) | 10.1038/nj7178-601a
最近インドを旅したが、急成長を遂げている国で科学研究をしたり科学政策を立案したりするのがいかに難しいかを直感した。インドの科学系企業は成長し、成熟しているにもかかわらず、科学者は政府に対し、貧困にあえぐ市民を多く抱えるこの国にさらなる財政支援を求めている状況である。健全な政策であっても官僚制度という修羅場をくぐり抜けなければならない場合が多い。
エネルギーと環境を例に挙げてみよう。インドでは11億人に上る人口の約半数が電気の供給を受けていない。その代わり、数百万人もの村人がバイオマスや牛糞の塊をエネルギーとして暖房や料理に使用している。都市はディーゼルエンジンや石炭火力発電所から排出される粒状物質で汚染されている。経済発展により、生態系やインドの象徴でもあるトラなどの動物種が危機に瀕しているのである。
その一方で、インドの経済成長は目覚ましく、国内総生産 (GDP) の2桁成長を後押しするため、二酸化炭素の排出量が増えるとの心配をよそに、さらなるエネルギーを渇望している。風力、バイオ燃料、太陽光といった代替エネルギー源の使用も進んではいるが、需要の高さと比べるとたかが知れている。インドは多数の科学者やエンジニアを輩出しているものの、エネルギーや環境政策は休眠状態である。こうした政策を変革の原動力にするための政治的意思も欠如している場合がある。問題の妥協点を見出そうと、インドではよく政権を巡って閣僚間で激しい議論が繰り広げられている。
同時に、インド国内には生物科学が急速に発展している地域がある。民間セクターでは、バンガロールを拠点とするバイオテクノロジー最大手のバイオコンが21%の増収を発表している。学術分野にも向上の兆しが見えている。バンガロールのインド科学研究所 (Indian Institute of Science) で生物化学学科長を務めるDesirazu Rao氏は、政府の財政支援も増えているし、海外で博士課程を修了した科学者がインドに帰国する事例も増えている、と声高に語っている。
インドが成功を収めるには人材がカギとなる。産業界と学界がともに発展し、またエネルギーや環境といった頭痛の種が少しでも改善される見込みがあるのであれば、インドは人材を確保し、育成していく必要がある。優れた科学や科学政策に必要なのは、妨害する政府ではなく支援してくれる政府なのである。もちろん、優れた科学者も必要である。