科学者の移住を受け入れる国が増加
2008年1月31日
Paul Smaglik
Moderator of the Naturejobs
Nature 451, 493 (23 January 2008) | 10.1038/nj7177-493a
米国立科学財団(NSF)が先週発行した2008年科学教育指標(http://www.nsf.gov/publications)によると、科学と工学の分野ではグローバルな人材獲得競争が激しさを増している。また、そうした争いではビザ(査証)が重要な武器となり、一流の研究者を確保しようとしのぎを削っている。報告書には、「多くの国が積極的に障壁を取り除き、高い技能を持った移住者が自国の労働市場に参入できるようにしている」とある一方、「同時にアメリカへの移住がやや難しくなってきている」とも記されている。
例えば、カナダや日本を見てみると、熟練労働者へのビザの発給件数が急増している。2005年にはカナダで44,000件の一時滞在ビザが発給されたが、これは1995年以来63%増である。日本の場合はさらに多く、2003年には268,000人の労働者が一時滞在ビザで入国しており、1992年以来93%も増えている。ところが、アメリカでは同様のビザを取得するのが困難になっており、2003年10月には、IT部門やその他の研究開発(R&D)部門の研究者に発給されることが多いH-1B ビザの最大発給件数が195,000件から65,000件に減らされた。これではアメリカを拠点とする企業が外国人を雇用するのが難しくなるだけでなく、外国人の学生も学位取得後にアメリカに滞在して求職活動をしようという気持ちが失せてしまう――ちなみに、カナダでも日本でも、一時滞在ビザの制限を少なくし、長期滞在を認めるようになっている。
ビザの発給状況から浮き彫りになるのは、単に移住の問題だけではない。カナダや日本といった国の動向からは、インフラやR&Dへの投資状況がある程度見えてくる。求職者にとっては、ビザの発給件数が増えているということは新たなチャンスが生まれているということである。例えば日本では、増加している移住者のほとんどが他のアジア諸国の出身者である。日本がビザの発給件数を増やす前は、こうした労働者が目指す国はアメリカかヨーロッパであったはずだ。
求職者から見れば、発給されるビザはその国の玄関を照らす明かり、つまり仕事であり、実際に取得したビザは市場に参入するための鍵である。競合する国々は、玄関マットをきちんと敷いておくことが人材獲得競争に勝つ唯一の方法なのだと考えてもいいのではないか。
英語の原文:More countires are opening their doors to scientific immigration