遺伝子配列の順序を入れ換える、新たなRNA加工様式を発見!
2007年12月13日
立教大学理学部生命理学科
関根 靖彦 准教授
「DNAの遺伝情報を転写し、タンパク質が合成される過程で仲介役を果たすだけ」。長い間そう考えられてきたRNAだが、最近になって、「驚くべき新たな機能」が相次いで発見されている。たとえば、2005年には、マウスゲノムで70%以上もの領域がいったんRNAに写し取られており、しかも、その半分以上が「タンパク質をコードしない非コード RNA(ncRNA)」として、遺伝子発現の調節機能などを果たしているらしいことが示された。こうした中、このほど立教大学理学部生命理学科の関根靖彦准教授は、DNAの情報がRNAに写し取られて利用される際に、その配列の前半と後半の順序が入れ換わる「新たなRNA加工様式」があることを突き止めた。
RNAには、DNAの情報を写し取る伝令RNA(mRNA)、mRNAの情報(コドン)に対応するアミノ酸を運ぶ転移RNA(t RNA) 、タンパク質を合成する際にはたらくリボソームRNA(rRNA)などがある。いずれも、DNAと同じように4種の塩基(DNAはA,T,G,C 。RNAはTのかわりに Uをもつ)が鎖状に連なった構造をもつが、二本鎖のDNAとは異なり一本鎖で、特定の立体構造を形づくることで機能を果たしている。
関根准教授らが研究に用いたのは、「シゾン」とよばれる原始的な微生物(原始紅藻)。「そのtRNAを作り出すための遺伝子が30種しかみつかっておらず、ほかの生物にくらべて極端に少ないとの報告がなされたため、なにかからくりがあるに違いないと直感して研究をはじめた」と関根准教授。ヒトでは、48種のアンチコドンをそれぞれもつtRNA遺伝子が知られ、細胞内には全部で450コピーものtRNA遺伝子が存在しているという。
シゾンの全ゲノムは、同じ立教大学の黒岩常祥教授らによって完全解読されている。「シゾンゲノムのデータを既存のtRNA遺伝子探索プログラムに照らし合わせても発見できないことから、tRNA遺伝子がどこかで分断されているのではないかと思い当たった」。そう話す関根准教授は、分断されたtRNAを想定してシゾンゲノムの配列をみなおす作業を行った。その結果、実際のtRNAの塩基配列の前半と後半の順序が入れ換わった遺伝子がみつかったという。
さらに研究を進めたところ、「入れ換わりのメカニズム」はおおよそ以下のようであることがわかった。
- DNA上の遺伝子の配列がそのままRNAに写し取られる。
- そのRNAの先端と末端が結合して環状のRNA(環状化RNA)になる。
- 環状化RNAの結合部位とは異なる部位に切れ目が入る。
- 再びひも状になったRNAをもとに特定の立体構造をもつtRNAが作られる。
「メカニズムをわかりやすく例えると、DNAには『ろちょうもんし』と書かれているところを、RNAを作る際に文字を入れ換えて『もんしろちょう』と意味のある言葉にするようなものだ」と関根准教授は説明する。これまでに「もんしらかろちょう」から「らか」を削除して「もんしろちょう」にする、「もんし」と「ろちょう」を連結することで「もんしろちょう」にするといったやり方でtRNAを合成する例は知られていたが、今回のような入れ換えはまったく知られていなかった。
関根准教授は、「今のところ、同じような入れ換えの加工様式は、他の生物ではみつかっていない」としたうえで、「この加工様式にどのようなメリットがあるのかは、まだ不明だ」とコメントする。とはいえ、今回の研究成果は、生物が予想以上にゲノム情報を柔軟に加工・編集していることを物語っている。「ゲノム配列には、生体システムを理解するうえで重要なメカニズムがまだ多くあるはずだ」と話す関根准教授。次なる「お宝」を掘り当てるための研究が続く。
西村尚子 サイエンスライター