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地球にやさしいエネルギーシステム、太陽光発電の進展を目指す研究センターが誕生

2007年10月25日

岐阜大学未来型太陽光発電システム研究センター

中部地方の気象場の解析結果。雲と風の様子を示している。太陽光発電の効率を左右する大気条件の予測に使うことができる。 | 拡大する

太陽電池を使う太陽光発電は温室効果ガスを出さないクリーンなエネルギーシステムで、エネルギー源は無尽蔵、設備が小さく、設置場所に合わせて大きさを変えられる、監視やメンテナンスもほぼ不要、リサイクルもしやすいという大きなメリットを持つ。日本の太陽光発電システム設置量は世界のトップレベルであるが、現在のところ、変換効率が低くて発電量が小さいうえ、コストが高く、昼間にしか発電できない、発電量が気象条件に左右されるというデメリットがあり、電気事業法等の制度上の理由もあって、大量普及には至っていない。

岐阜大学未来型太陽光発電システム研究センターは、このような太陽光発電システムにターゲットを絞ったユニークな研究組織で、2006年12月に誕生。太陽光発電システムに関する研究を行う同大学の3つのプロジェクトがNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成研究費を受けたことを契機に、高効率・大面積・長寿命・高信頼性・低コストのシステム開発を目指し、共同研究やネットワーキング、人材養成を進めるのを目的として開設された。

工学部の25名の研究者が所属し、①薄膜シリコン系太陽電池研究開発部門、②発電量評価技術研究開発部門、③色素増感太陽電池研究開発部門に分かれて、研究を行っている。

薄膜シリコン系太陽電池研究開発部門は、部門長である野々村修一センター長(同大学院工学研究科環境エネルギーシステム専攻教授)を中心に、シリコン系太陽電池をさらに高効率化するための研究を行い、アモルファス(非晶質)シリコン薄膜の研究を日本で初めて行ったという岐阜大学の伝統を受け継いでいる。

ここでは微結晶シリコンカーバイドやゲルマニウム系薄膜など新規材料の開発を行うほか、透明電極に使われている原子状水素によって透明性が損なわれるのを防ぐため、酸化チタンを保護膜として貼り付ける研究も行われている。走査型プローブ顕微鏡を用いた、薄膜上の微小領域での特性評価技術の開発など、評価技術の研究にも力を入れる。

太陽電池は昼間にしか発電できないため、小型で効率のいい蓄電システムの開発も課題だ。工学部電気電子工学科の伊藤貴司准教授は微小なグラファイトが自立的に壁状に発達するカーボンナノウォールを蓄電用大容量キャパシタに応用する研究を行っている。

発電量評価技術研究開発部門では、太陽電池の発電量を左右する気象条件についての研究が進む。部門長である工学研究科環境エネルギーシステム専攻の小林智尚教授は、海岸・海洋工学、気象学の専門家で、大気環境の細密時空間分布の気象モデルとその解析・予測システムの開発を行っている(図版)。太陽電池の効率は日照時間だけでなく、大気中の水蒸気やエアロゲルなどさまざまな条件によってその場所・時間で強くなる太陽光のスペクトル成分にも左右される。このようなシステムは、発電効率の高い地域を選定したり、将来、太陽電池の種類や性能の多様化が進んだときに地域の気象条件に合った太陽電池を選んだりするのに役立つ。

色素増感太陽電池は有機材料を使うため、材料が手に入りやすく、毒性がない、軽量でデザイン性が高くなるといった特徴を持ち、未来の太陽電池として期待されている。同センターでは、部門長である工学研究科環境エネルギーシステム専攻の吉田司准教授が酸化亜鉛薄膜の電界メッキを使う独自の方法を開発。光や電子を通しやすい構造の酸化亜鉛薄膜をプラスチックに貼り、カラフルな有機材料の増感色素を用いた太陽電池を企業との連携で作成している。

「センターとして目的を明確にしたことで、研究者や企業が集まりやすくなり、情報交換や産学連携が活発になりつつある」と野々村センター長。太陽光発電システムに興味のある他大学出身の学生が大学院に入学するなど、将来の研究を担う人材養成も徐々に軌道に乗っていきそうだ。

なお、同センターでは10月26日(金)に「地球温暖化と太陽電池」と題したシンポジウムを開催し、各部門の研究成果の発表と特別講演などを行う。

小島あゆみ サイエンスライター

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