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異常タンパクの抗体を測る、新しいコンセプトの腫瘍マーカーを開発

2007年9月27日

千葉大学医学部先端応用外科
島田 英昭 講師

食道がんにおける血清p53抗体(IgG抗体)の陽性率 (従来の腫瘍マーカーとの比較)。 | 拡大する

このほど新しい腫瘍マーカー“MESACUP anti-p53テスト”が厚生労働省の製造承認を受け、7月から販売が始まった。食道がん、乳がん、大腸がんの診断の補助として使われ、年内にも保険収載される見通しだ。

この新しい腫瘍マーカーを研究し、臨床応用できるようにしたのは、千葉大学医学部先端応用外科の島田英昭講師。食道がんの専門医だ。食道がんは発見されたときには進行している例が多い、難治がんのひとつ。そのため早期の段階で発見したいという強い思いがあった。

がん抑制遺伝子であるp53遺伝子が作り出すタンパクは、正常であれば、傷ついた遺伝子の修復、細胞周期の制御、アポトーシスの誘導といった働きを持つが、異常になるとその働きがなくなり、がんになりやすくなる。とくに固形がんにおいてはp53タンパクが過剰発現する頻度が高いことが知られている。島田講師らのデータでは、食道がんでは62%、肺がんでは59%、大腸がんでは55%に異常なp53タンパクが過剰に出現しており、これはp53遺伝子の異常の頻度とほぼ対応している。

この異常なp53タンパクは不要な異物であるため、人体はIgG(免疫グロブリンG)抗体を作り出して、排除しようとする。

1990年ごろからIgG抗体を検出することで異常なp53タンパクの出現を明らかにし、発がんの有無や進行を推測する方法が検討されてきたが、検査キットは数種類開発されていたものの、腫瘍マーカーとして臨床で使われるには至らなかった。

島田講師らはさまざまな腫瘍マーカーの研究を続けるうち、治療前のがん患者や健康診断でがんが見つかった人にはIgG抗体の陽性率が高くなることを発見。大規模な臨床試験を実施し、その結果を踏まえて、2001年に厚労省に製造承認申請を出した。

現在使われている腫瘍マーカーは、国際的に“がんからの分泌物を測定するもの”と規定されており、いわば抗原を測る。これに対し、“MESACUP anti-p53テスト”は抗体を測定するという新しいコンセプトの世界初の腫瘍マーカーとなった。

その特徴は早期発見に使えること。がんには0期からⅣ期までのステージがあり、数字が大きくなるほど、がんが進行していることを示す。従来の腫瘍マーカーは、がんの進行度と相関して陽性率が高まるため、発見されたときにはⅢ期やⅣ期まで進行していたという例が多い。

一方、IgG抗体は、がんが約1mm3(がん細胞が約100万個)の大きさならば、血中に出ているとされる。IgG抗体の血中濃度はがんの進行度とは強い相関がなく、“MESACUP anti-p53テスト”を従来の腫瘍マーカーと比較すると、ステージ0期とⅠ期のがんで陽性率が有意に高くなる(図)。その理由を「早期では人体はがんと対抗するためにIgG抗体を産生するが、進行すると免疫反応が減弱して、IgG抗体を多く出そうとしなくなるのではないか」と島田講師は推測している。

そのため、島田講師は「“MESACUP anti-p53テスト”をほかの腫瘍マーカーと併用することががんの検出率を上げることができる」と話す。「例えば、食道がんでよく使われるSCCとCYFRAはステージ0期やⅠ期における陽性率は10%前後だが、“MESACUP anti-p53テスト”単独では20%以上で、組み合わせることによって陽性率が上がり、がんがある部位も特定しやすくなる」。

また、治療後にIgG抗体値が高かった人は再発しやすく、低かった人は再発しにくいという傾向が見えてきている。抗がん剤など今後の治療の進め方の判断に“MESACUP anti-p53テスト”が使える可能性がある。

ヒト免疫グロブリンの中でも最も量が多いIgG抗体は、がんとの関連が知られていたが、その詳しい役割は未知な部分が多い。島田講師らの研究はIgG抗体の機能の解明に寄与するかもしれない。

島田講師は健康な4000人以上の血液データを蓄積しており、すでにIgG抗体以外のがん関連抗体を発見している。今後は、IgG抗体を含む、いくつかの抗体腫瘍マーカーをチップ上に並べ、一度に計測する方法を開発する予定だ。日本発の新しい腫瘍マーカーの今後が注目される。

小島あゆみ サイエンスライター

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