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有機物による超弾性現象を世界で初めて発見

2014年8月28日

横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科
高見 澤聡 教授

一定以上の温度帯では変形しても元に戻るという合金の超弾性現象は、1932年に金・カドミウム合金から発見されたのが最初で、以後この性質を持つさまざまな合金が日用品から産業機器の部品にまで広く使われている。また、一部のセラミックにも超弾性現象が見られることが知られている。ただ、有機物ではこれまでこのような性質を示す物質は見つかっていなかった。

横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科の高見澤聡教授は、このたび有機物の超弾性現象(有機物超弾性)を世界で初めて見出した(Angewandte Chemie Volume 53, Issue 27, 6970–6973, Nature 509, 536, Nature 511, 300–301)。

超弾性は“形状が戻る”という点では高分子のゴム弾性と似ているが、そのメカニズムは全く異なる。ゴム弾性では、引き伸ばされる力がかかったとき、それまでばらばらで自由に動けたゴムの分子が運動を制限されて並び、規則的な結晶組織を形成する。そして、緩められたときには再び分子が元の不規則な配列に戻り、ばらばらになる。この現象には温度も重要で、ガラス転移温度以下で生じた変形は保存され、ガラス転移温度以上ではゴム弾性が生じて形状が弾性的に復元する。こうした分子の運動制限は物質の形状記憶効果を司っている。

テレフタラミド結晶の超弾性を示す実験結果
左が可逆的な変態の様子。右は機械的負荷と変形量サイクルをグラフ化したもの。赤線は負荷がかかったとき、青線は負荷が除かれたときの結晶の変形を示す。 | 拡大する

一方、超弾性は伸張や圧迫などの機械的な負荷に対して結晶構造が変化する(異なる結晶相に転移する)ことで発揮される擬弾性に基づいており、機械的な負荷がなくなると結晶構造が元にもどる。つまり、結晶の変態が弾性のベースなのだ。合金の超弾性現象はある温度を超えると発揮され、形状記憶効果の源泉となっている。超弾性は温度上昇に伴って弾性率が増大する特性が知られており、これは温度を上げると弾性率が減少するゴム弾性とは真逆の特性である。

高見澤教授は100以上の有機物の単結晶を調べて、超弾性の性質を持つ複数の有機物を見つけ、そのうちテレフタラミド結晶の成果を報告した。テレフタラミドは最も単純な有機化合物の一つであり、防弾チョッキなど耐熱性の高い高弾性率繊維などに使われる高分子製品の基本骨格に含まれている。「低分子有機固体は弱い力で固体形状が破壊されやすいため、有機化合物単結晶を構造材料等に用いる研究はこれまでされていませんでした。テレフタラミド分子はベンゼン環に炭素と酸素、アミノ基が付いたシンプルな構造を持っており、今後、さまざまな超弾性および形状記憶材料の合成研究に役立つと考えています」と高見澤教授は話す。

実験では厚み150 µm、幅59 µmのテレフタラミド結晶の端をエポキシ樹脂で留め、幅25 µmの金属の刃で結晶の相転移が起こりやすい方向から500 µm/分のスピードで押した(図参照)。そうすると結晶の一部が相転移を起こし、相転移した部分が広がって、やがて元に戻った。この実験を100回繰り返しても材料は疲労せず、形状が戻る性質はなくならなかった。「機械的負荷の大きさの制御、とくに装置自体のたわみの補正や、極めて小さい剪断力と変位を制御したうえで、微結晶の弾性を観測するのが難しかった」と高見澤教授。「機械的負荷をかける前の母相でも負荷をかけた後の娘相でも単結晶状態が維持されていることが超弾性に関係していることもわかりました」。なお、このテレフタラミド結晶の超弾性現象は常温で観察できるのが特徴で、高見澤教授は現在、さらに詳しく結晶の変態の温度依存性を調べている。

このような超弾性を持つ材料には衝撃吸収力があり、さらに部品をその材料で作ると部品自体を軽量化できるため、構造材料、接合部分、機械の部品、振動吸収材などに使える可能性がある。また、「有機物なので、生体適合性が高く、体内埋め込み型デバイスの材料にも使えるかもしれない」(高見澤教授)。非晶質で分子間に隙間があって弾性が高い高分子にこのような超弾性を持つ有機物を加えて形状記憶効果を強化したり、従来のゴム弾性に異方性を持たせたりすることも考えている。

高見澤教授は学生時代から金属錯体を用いた人工多孔質固体によるガス吸着の研究を続けており、この4月には金属錯体の単結晶膜を新しく合成し、それが既存のガス分離膜よりも高効率に水素ガスを分離することを報告している。他方、4年前に教授に昇進して以来、有機物結晶の動的性質も研究テーマに加え、今回のようなユニークな研究成果を発表した。これからも「結晶や分子集合体の研究を通じて固体の新しい機能を見つけていきたい」と抱負を語っている。

小島あゆみ サイエンスライター

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