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赤血球からミトコンドリアが除かれるしくみを解明!ブックマーク

2014年8月14日

清水 重臣
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 病態細胞生物学分野 教授

真核生物の細胞内には、核、ミトコンドリア、小胞体といった一定の細胞内器官が存在し、それぞれに特異的な機能を果たしている。ところが、例外的に核やミトコンドリアをもたない細胞が知られている。今回、東京医科歯科大学 難治疾患研究所の清水重臣教授らは、こうした例外の代表格である赤血球において、はじめは存在していたミトコンドリアが取り除かれるメカニズムを突き止めた。

ミトコンドリアが除去されたAtg5欠損マウスの赤血球(左)と、取り除かれていないUlk1欠損マウスの赤血球(右) | 拡大する

酸素や二酸化炭素と結合することで、血中のガス交換を担う赤血球は、中央がへこんだ円盤状をしている。赤血球は他の血液細胞と同じように造血幹細胞から分化誘導されることで作られるが、特殊な転写因子(GATA-1等)がはたらくことによって、まず核が取り除かれ(脱核)、その後ミトコンドリアも取り除かれる。

「ミトコンドリアが取り除かれるのは、酸素を消費するミトコンドリアが赤血球内に存在すると、ヘモグロビンに結合する酸素が少なくなって体の組織に運搬されるべき酸素が減るのを防ぐためだと思われます」と清水教授。これまでに、ミトコンドリアが細胞内の分解システムの一つであるオートファジー(自食作用)によって除去されることはわかっていたが、詳細な分子メカニズムは不明のままだった。

オートファジーは、細胞を正常に維持するために、古くなった細胞内小器官やタンパク質を分解・除去するしくみ。大きく「栄養飢餓などの時に誘導され、Atg5という分子が関与するタイプ(Atg5依存的オートファジー)」と、「細胞障害時などに誘導され、Atg5分子に関与しないタイプ(Atg5非依存的オートファジー)」の2種に分けられる。

「興味深いことに、赤血球では両方のオートファジーがおきているらしいということがわかっていました。特徴的な細胞形態を作るのに必要な細胞質成分除去はAtg5依存的で、ミトコンドリア除去はAtg5非依存的なのです。処理されるものによって、オートファジーが使い分けられているようです」と清水教授。

今回、清水教授らは遺伝子をノックアウトすることで、「Atg5非依存的オートファジーが主におきなくなるUlk1欠損マウス」、「Atg5依存的オートファジーだけがおきなくなるAtg5欠損マウス」、「両者ともおきなくなるUlk1/Atg5二重欠損マウス」を対象に、赤血球内のオートファジーの定量、ミトコンドリアの残存量を、電子顕微鏡や生化学的解析により測定した。さらに、これらのマウスから単離した未分化な赤血球(赤芽球)をシャーレ中で分化させ、この過程でのオートファジーとミトコンドリアを測定する実験も行った。

実験の結果、次のことが明らかになった。
1.Ulk1欠損マウスの赤血球では、オートファジーがおきず、ミトコンドリアが貯まっていた。
2. Atg5欠損マウスでは、正常マウスと同様にオートファジーがおき、ミトコンドリアは除去されていた。
3. Ulk1/Atg5二重欠損マウスでは、Ulk1単独欠損マウスと同程度にミトコンドリアが貯っており、Atg5欠損の影響はみられなかった。

清水教授は「一連の結果は、赤血球のミトコンドリアの除去を、Ulk1に依存したAtg5非依存的オートファジーが担っていることを強く示しています」とし、「ただし、Ulk1欠損マウスが成体になると、ミトコンドリアをもたない赤血球が増えてくることもわかりました」とコメントする。成体マウスでは、何らかのUlk1の代償機構がはたらくようになるのではないかという。

「今後は、成体マウスでUlk1のかわりにはたらく分子を突き止めるとともに、Atg5非依存的オートファジーが、体のどこで、どのようなタイミングで誘導されるかを解明していきたい」と意欲を燃やす清水教授。すでにAtg5非依存的オートファジーに関わる分子を複数、同定し、これらのノックアウトマウスの作製と解析によって、がんや神経変性疾患などのさまざまな病気に関係していることを明らかにしつつある。

西村尚子 サイエンスライター

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