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天の川銀河の外縁部に存在する変光星の位置と動きを世界で初めて測定

2014年6月26日

東京大学大学院理学系研究科天文学専攻
松永 典之 助教

天の川銀河(銀河系)はどこまで続いているのか。その最果てはどうなっているのか。最近、そうした疑問の一端を解き明かす研究結果が変光星の観察から明らかになった。

東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻の松永 典之 助教、ケープタウン大学(南アフリカ)のMichael W. Feast名誉教授らの研究グループは、このたび天の川銀河の端(フレア領域)に存在する5つの変光星の位置と動きを測定(Nature 509, 342–344)。これは(地球から見て)天の川銀河の中心の向こう側にある変光星の位置と動きを確認した世界で初めての報告となった。

図の左側の赤丸が松永助教らが距離と動きを測定した5つの変光星。赤線は距離の不定性。太陽系の周囲のオレンジ色の点はこれまでに発見されていたケフェイド変光星。 | 拡大する

宇宙には1000億個以上の銀河が存在すると推定されている。銀河は、その形態から、楕円銀河、円盤銀河、非対称な不規則銀河などに分けられ、さらにこれらに比べて暗い矮小銀河もある。天の川銀河は円盤銀河の一種で、星や星間物質が渦巻き状の模様(渦状腕)を構成しており、秒速200 kmほどで回転している。特に、中心部には星や星間物質が棒状に集まっているのが特徴だ。

円盤の直径は約15万光年で、中心部の周辺(バルジ領域)は幅・厚みとも膨らんでおり、また円盤の外側周辺部(フレア領域)でも厚みが増している。この円盤の厚みは太陽系の辺り(中心から約2万5000光年)では1000光年程度で、中心から5万光年程度のフレア領域では3000光年程度と推測されている。

「フレア領域にはこれまで星が見つかっておらず、星があるかどうかも分かっていませんでした」と松永助教。特に地球からバルジ領域側を観察しようとすると、バルジ領域に大量にある星や星間物質が遠方の星が出す光を遮るため、可視光で観察するのが難しい。そこでバルジ領域やその向こう側の星は赤外光によって調べることになる。ただし、星の明るさは千差万別で、普通の星の位置を求めるのは難しい。さらにフレア領域のような外縁部では星も星間物質も密度が小さく、円盤の外にいる星も混ざり込むことから、観測がもっと困難になる。このような悪条件を克服して観測と分析を繰り返した結果、松永助教らは5つの変光星の位置と動きを測定したわけだ。

収縮と膨張を繰り返して色と明るさを変える変光星にはいくつか種類があるが、今回、松永助教らが見つけたのはケフェイド変光星と呼ばれる変光星で、その変光周期は約2〜50日と短い。変光星は一般的に、収縮時には高温になり、膨張時には冷たくなっており、ケフェイド変光星では収縮して高温になったときの方が明るいことが知られている。また、変光星は、変光周期が長いほど明るく、重いほど、また若いほど明るい。このような特徴を活かし、変光周期と距離の分かったケフェイド変光星を基準にすることで、遠くの銀河で見つかった星の明るさから、その星と地球との距離を求めることができるようになった。このため、ケフェイド変光星は星の距離を測る「宇宙の灯台」と呼ばれる。

松永助教らは南アフリカのサザーランドに名古屋大学が建設したIRSF望遠鏡(Infrared Survey Facility、口径1.4 m)に設置された近赤外線カメラを使用。2012年にワルシャワ大学(ポーランド)の研究チームがケフェイド変光星であるとして報告していた32個を調べ、そのうちの5つが、天の川銀河の中心から6〜10万光年の距離にあり、円盤の上下約3000光年に分布していることを明らかにした。つまりこれら5つの星は、フレア領域の厚みに相当する位置にあったのだ(図)。

そして、SALT望遠鏡(Southern African Large Telescope、口径10 m)を使い、赤外光でこれらの変光星の動きを分光スペクトルで調べたところ、星間物質のガスと同じような運動をしていたことから、5つの星はそばにある射手座矮小銀河ではなく、天の川銀河に属すると分かった。「1つは円盤の下側、4つは円盤の上側にあり、バルジ領域の陰から少し外れているので観測することができました」。

天の川銀河の周囲には、「観測できないが、質量を持つ物質」である暗黒物質(ダークマター)がある。天の川銀河のフレア領域に変光星が見つかるということは、天の川銀河の周囲の暗黒物質の分布を調べることにもつながる。暗黒物質は天の川銀河の中心部にも存在しているが、外側ほどその割合が増えるため、フレア領域における変光星の動きは暗黒物質の影響を受けていると考えられており、暗黒物質の分布を調べる手がかりになるのだ。

松永助教は別の研究チームで2011年には天の川銀河の中心近くに別の3個のケフェイド変光星を発見している(Nature 477, 188–190)。「3つの星の変光周期はすべて20日前後で、生まれた年齢は今から2500万年前くらいであるとわかりました」。

「たくさんの星の中から変光星を示す位相カーブが見つかるとほんとうにうれしいです」と話す松永助教。今後もサザーランド観測所や東大の木曽観測所の望遠鏡、CCDカメラを使って変光星を見つけていくのに加え、その化学組成を調べていきたいと抱負を語る。「天の川銀河という限られた域内での数千万個の変光星を探すのは、人類にとっては一度きりの仕事。2013年に欧州宇宙機関(European Space Agency:ESA)が打ち上げた人工衛星Gaiaの観測などによって、ケフェイド変光星の発見はあと10年ほどで終わってしまうだろうと予測しています。ですから、これからは見つかったケフェイド変光星の運動や化学組成を調べたいと思います。赤外光のデータによる新たな分析手法が今後確立されれば、星間ガスから星ができる歴史、銀河の進化を直接見ることができるようになります」。

誰も本当の姿を見たことがない天の川銀河。松永助教ら多くの天文学者の研究の積み重ねが新たな宇宙像を描いていく。

小島あゆみ サイエンスライター

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