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ニューロンの個性が作り出される仕組みを解明!

2014年1月9日

服部 佑佳子
京都大学大学院生命科学研究科
多細胞体構築学講座細胞認識学分野 特定助教

ヒトの脳には1000億以上ものニューロンが存在し、それぞれが、情報の出力を担う長い軸索と、受容した情報を処理する樹状突起を持つ。高度な機能を司る神経回路は、ニューロンどうしが樹状突起と軸索を介して複雑につながり合うことで構築される。このたび、京都大学大学院生命科学研究科の服部佑佳子 特定助教らは、それぞれのニューロンの個性ともいえるサブタイプがどのように生み出されるのかを調べ、ある転写調節因子の機能が重要であることを見いだした。

クラスIニューロンとクラスIVニューロンの樹状突起のかたちと、サブタイプセクレターの概念。 | 拡大する

これまでに、ニューロンには形態や機能の異なるサブタイプがあり、サブタイプごとに機能を分業していることが分かっていた。サブタイプを区別する尺度の1つに「樹状突起の形や大きさ」があり、例えば、網膜のニューロンのあるものは、一方向を向いた樹状突起を持つことで特定の条件下で発火する。ただし、ニューロンが誕生した後に、どのような遺伝子プログラムでサブタイプの特性を獲得するのかについては未解明のままだった。

この10年、服部特定助教らの研究グループは、「サブタイプが、特定の転写調節因子(サブタイプセレクター)を発現することで、適切な特性を獲得していくこと」を明らかにしてきた。「ただし、同定したサブタイプセレクターが具体的にどの遺伝子の発現を制御しているのか、そもそも遺伝子プログラムがサブタイプ間でどの程度異なっているのかといったことは、断片的にしか分かっていませんでした」と服部助教。

今回は、ショウジョウバエのニューロンを用いて、サブタイプセレクターの標的遺伝子を同定し、その機能を調べることにした。「感覚神経に属するda neuronを対象にしました。このニューロンは表皮と筋肉の間に2次元的に樹状突起を伸ばし、樹状突起の複雑度によって4つに分類されます。私たちは、最も小さく単純なクラスIニューロンとそのサブタイプセレクター、そして最も大きく複雑なクラスIVニューロンとそのサブタイプセレクターに注目して解析を進めました」と服部助教。クラスIニューロンは、クシのように突起を伸ばし、幼虫の運動制御に関与。一方のクラスIVニューロンは、皮膚の裏側を覆うように存在し、痛覚刺激を受容するという。

服部助教らはまず、転写因子の結合部位に目印(メチル化)を付けるDamID法を用いて、サブタイプセレクターの結合部位近傍の遺伝子を突き止めた。次に、da neuronにおいて、サブタイプセクレターがどの遺伝子の発現を制御しているかを特定。これらの結果を統合し、サブタイプセレクターの直接の標的遺伝子を同定した。さらに、GAL4-UASという手法を用いることで、生体中でこれらの標的遺伝子を発現抑制あるいは過剰発現した場合に、樹状突起の形態がどう変化するのかも検証した。

「ショウジョウバエは約1万5000の遺伝子を持ちますが、そのうちの429遺伝子が、今回注目したサブタイプセレクターの標的遺伝子でした。その中で、クラスIニューロン、あるいはクラスIVニューロンの樹状突起の形に関与する24の遺伝子を同定しました」と服部助教。その内訳は、カルシウムイオンチャネル、膜輸送制御タンパク質、mRNA結合タンパク質などの多岐にわたる遺伝子だったという。さらに、それぞれのニューロンのサブタイプセレクターが「互いに共通する標的遺伝子」と「固有の標的遺伝子」を持つことも突き止めた。

得られた結果は、サブタイプセレクターが、単に遺伝子発現のONとOFFを決めるだけでなく、サブタイプ間で部分的に共通する遺伝子セットをサブタイプごとに適した量で発現させることで、そのサブタイプに特徴的な形態的特徴を生み出していることを強く示している。「成功の鍵は、ゲノムワイドなデータをインフォマティクスによって丁寧に読み解き、個体中の細胞レベルで検証できた点にあると思います。このアプローチは、他のさまざまな細胞分化研究にも応用できると考えています」。服部助教はそうコメントする。

一連の成果は、ほとんど未解明なヒトのニューロンのサブタイプ獲得メカニズム解明や、感覚神経の異常による疾患の原因究明にもつながると期待される。「私自身は、特定のサブタイプの細胞中で、どのような遺伝子発現の変化が起きるのかを経時的に調べ、分化過程の違いなどをより厳密に理解したいと考えています。また、今後の新たなテーマとして、生物種の多様性や環境適応との関連にも迫りたい」と話す服部助教。膨大なゲノムデータと格闘する日が続く。

西村尚子 サイエンスライター

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