植物の「瞬時に変化する光の強さに対応する仕組み」を解明!
2013年11月14日
得津 隆太郎
自然科学研究機構 基礎生物学研究所
環境光生物学研究部門 助教
植物は例外なく、太陽の光エネルギーを利用して光合成を行うが、太陽光の強さは緯度や高度によって大きく異なる。そのため、自力で動けない植物には「受け取る光の量」を調節する仕組みが備わっており、例えば、強い光が降り注ぐ地域では「葉緑体の数を減らす」、「光が当たりにくいように葉っぱの向きを変える」といった機構が働くことが知られる。一方で、同じ場所において、時々刻々と変化する光への適応については、よく分かっていなかった。このほど、自然科学研究機構 基礎生物学研究所 環境光生物学研究部門の得津 隆太郎 助教らは、急に強い光が降り注いだ場合などに、過剰な光エネルギーを安全に熱へ変換し消去する仕組みを、分子レベルで解明することに成功した。

これまでに知られる光受容量の調節機構は、発動までに一定の時間を必要し、「ぶ厚い雲がたれ込めたかと思ったら、強風が吹き、雲の隙間からサッと強烈な光が刺す」といったように、時々刻々と変化する光には対応できない。ただし、素早く対応しないと光合成の反応中心(PSIIタンパク質複合体)が破壊されてしまうはずで、強すぎる光を安全に消去するための未知の反応があるとされてきた。
「これまでの研究により、qEクエンチングという反応が、瞬間的な強光の余分な光エネルギーを熱に変えて消し去るのに有効であることが分かっていました。このqEクエンチングにはLHCSRというタンパク質が関与しているとされていますが、LHCSRの分子レベルの動態や、LHCSRが合成されるまでの時間をどのようにしのいでいるかといったことは謎のままでした」と得津助教。
そこで得津助教らは、単細胞の緑藻であるクラミドモナスの葉緑体を用いて、強光下での光適応反応について詳しく検証した。「まず、LHCSRの合成が完了するまでの4時間については、集光アンテナとなるタンパク質(LHCII)をリン酸化修飾することでPSIIから切り離し、光エネルギーをPSIIタンパク質に渡さないようにしていることが分かりました」と得津助教。この一時的な対処は「ステート遷移」とよばれており、これまでは夕日や水中に射す光といった「光の色の変化」に対応するものとされてきたが、突然の強光に対しても発動されることが分かったという。
「次に、4時間を超えて強光にさらされた場合には、ステート遷移と逆の反応がおき(つまり、切り離されたLHC IIが再びPSIIと結合し)、同時にLHCSRもPSIIに結合してPSII–LHCII–LHCSRの巨大なタンパク質超複合体形成が形成されました。私たちは、この超複合体こそが、qEクエンチングの反応中心であると予想しました」と得津助教。
そこで得津助教らは、PSII–LHCII–LHCSR超複合体を精製し、「葉緑体に過剰な光が当たった時に起きる、チラコイド膜内の酸性化」を模した酸性緩衝溶液に入れる検証実験を行った。「照射した光エネルギーが熱に変換され、安全に消去されることが確かめられました」とコメントする。
実は、得津助教は獣医になりたかったという。動物を解剖するのが嫌で、他に興味をもっていた海を対象にする水産学部に進学したが、2年のときに履修の取り違えというミスをおかし、留年してしまった。「そのとき、実験補助員として、今のボスである皆川 純先生の光合成研究を手伝わせていただき、光合成の重要性と面白さに魅せられてしまいました」。得津助教は、当時をそう振り返る。
一連の研究は、砂漠や赤道直下での農業、共生藻類の消滅によるサンゴの白化の抑制などに結びつく可能性をも秘めている。「基礎研究者である私の夢は、光合成を人工的に制御して酸素を作り出し、光の届かない深海で多様な深海生物の研究すること」と話す得津助教。その実現に向けて、努力する日々が続く。
西村尚子 サイエンスライター