役目を終えたNK細胞が、がん細胞の分子を膜ごと獲得して細胞死に至る仕組みを解明!
2013年8月8日
東北大学 加齢医学研究所 生体防御学分野
小笠原 康悦 教授
がん細胞やウイルス感染細胞を傷害して細胞死を誘導し、速やかに排除するNK細胞。NK細胞を増やし、その活性を高めることで治療に応用する試みが進んでいるが、生体内で機能を果たした後にどのようにして減少し、平常状態に戻るのかは不明だった。このほど、東北大学 加齢医学研究所 生体防御学分野の小笠原 康悦 教授は、役目を終えたNK細胞が細胞死に至るユニークなメカニズムを突き止めた。

NK細胞はリンパ球の一種で、必要に応じて骨髄中の前駆細胞から作られ、がん細胞、ウイルス感染細胞、紫外線や酸化ストレスを受けた炎症細胞などを標的にする。抗原による前感作なしに細胞傷害活性を発揮するのが特徴だが、獲得免疫反応によって抗体が結合した細胞を傷害する機能も併せ持つ。
NK細胞の分化から活性化までの仕組みは、ざっと以下のとおり。まず、インターロイキン15(IL-15)が、前駆細胞からの分化と増殖を促す。産生されたNK細胞は、炎症反応が起きるとリンパ節へとリクルートされる。そこで特定のインターフェロン(IFN-α/β)やIL-12などのサイトカインによって活性化され、細胞傷害機能を発揮する。同時に、別のインターフェロン(IFN-γ)を大量に産生するようになり、キラーT細胞の分化や活性化にも寄与する。
一方で、役目を終えたNK細胞がどのようにして減っていくのかについては、未解明のままだった。「私たちは、がん細胞と相互作用して活性化され、機能を果たしたNK細胞がどうなるのかを、マウスを用いて研究することにしました」と小笠原教授。
がん細胞は、膜上に特殊な分子(NKG2DL)を発現している。NK細胞は、「自身の分子(NKG2D)」をNKG2DLと接触させることによって細胞傷害活性を獲得する。「私たちは、この接触過程において、NK細胞自身が、がん細胞のNKG2DLを膜ごと獲得していることを発見しました。このとき、細胞膜や表面分子の表と裏は逆になってしまうはずですが、なぜか正しい向きに再配置されます。あたかもドレスをまとうように変化することから、ドレス現象と呼んでいます」と小笠原教授。
さらに小笠原教授らは、がんのNKG2DLをまとったドレスNK細胞が、他のNK細胞にがん細胞と勘違いされ、傷害されて細胞死に至ることも明らかにした。これこそが、役目を終えたNK細胞が減少し、平常状態に戻る仕組みだったのである。
これまで、NKG2DLの活性は遺伝子によって厳密に制御されると考えられていた。「ところが、そうではありませんでした。膜分子の移動であるドレス現象は、後天的にNK細胞を変化させてNKG2DLの活性を付加し、細胞の性質と機能を全く変えてしまっていたのです」と小笠原教授。
実は、小笠原教授がドレス現象を確認したのは、今回が初めてではない。「数年前に、NK細胞がドレス現象によって、樹状細胞のMHCクラスIIという分子を獲得することを発見していました」と小笠原教授。MHCクラスIIは遅延型アレルギーの発症に関与しており、MHCクラスIIを獲得したドレスNK細胞は、免疫反応を抑制する方向にはたらくという。
ドレスNK細胞は、細胞どうしを接触させることで比較的容易に作り出すことが可能で、新しい抗アレルギー治療や、がんの免疫療法などに結びつく可能性を秘めているという。「ただし、分子機構には未解明の部分も多く、アクチンの動きや膜の動きなどとの関連も解析中です」と話す小笠原教授。臨床応用に結びつけるべく、さらなる研究の日々が続く。
西村尚子 サイエンスライター