細胞の掃除屋「オートファゴソーム」は、 小胞体とミトコンドリアの接触部から作られる!
2013年5月9日
大阪大学大学院 生命機能研究科 / 医学研究科
吉森 保 教授
ヒトで60兆個、200種におよぶ細胞。内部では、他種多様なオルガネラが、与えられた機能を忠実に果たしている。その一つに、細胞内の老廃物や不要物を取り込んで分解するオートファーゴソームがある。このほど、大阪大学大学院 生命機能研究科/医学研究科の吉森 保 教授らは、長い間、謎とされてきたオートファゴソームの生成場所を突き止め、その意外な作られ方の一端をも明らかにした。

オートファーゴソームは、1950年代にほ乳動物でみつかった。必要なときにだけあらわれ、機能を果たすと消える一過性のオルガネラで、真核生物に広くみられる。主な機能は2つ。一つは、すでに述べたように、細胞内を掃除すること。もう一つは、細胞が飢餓状態に陥った際に、細胞質やオルガネラの一部を分解して、生きのびるためのエネルギーやタンパク質を合成することである。
いずれの場合も、こつ然と膜(隔離膜)が生じ、それが伸長しつつ直径約1マイクロメートル四方にあるものを包み、隔離膜が閉じるとオートファーゴソームとなる。つづいて、このオートファーゴソームに加水分解酵素をもつリソソームが融合し、包み込まれた内容物が分解される。こうした一連の現象は、「オートファジー(自食作用)」とよばれている。
「オートファジーに必須のATG遺伝子群が酵母で同定されたことで、研究が爆発的に進みました。一方で、隔離膜はどこからどうやって生じるのか、どのように標的を認識するのかといった謎も多く残されていました」と吉森教授。生成場所についてはさまざまな仮説が出されたが、よい観察技術がないために決着しなかったという。
今回、吉森教授は、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、細胞分画による生化学的解析、関連タンパク質の発現抑制解析と、最先端の解析技術を駆使することで、ほ乳類の細胞においてオートファーゴソームができる様子を観察した。「決め手となったのは、蛍光顕微鏡によるライブ観察でした。3台のCCDカメラを顕微鏡につなぎ、世界ではじめて3色同時ライブ撮影に成功しました」と話す。
とくに注目して観察したのは、小胞体とミトコンドリアの接触部位だという。「以前より、オートファーゴソームが小胞体からできるとする説、ミトコンドリアからできるとする説とがありましたが、2種の異なる膜で同じ機構がはたらくとは思えません。そこで、両方の説を説明しうる接触部位に着目し、この部位の変化とAtgタンパク質ファミリーの動態を調べることにしたのです」。
予想はみごとに命中した。「ライブ撮影の際、Atg5というタンパク質をマーカーにしました。Atg5は隔離膜に結合し、末端が閉じると膜から離脱します。得られた画像には、小胞体とミトコンドリアの接触部位にAtg5のドットがあらわれ、だんだんと大きくなり、最後に消えてなくなるようすが見事に写っていました」と吉森教授。
「オートファゴソームが多数作られる際には、接触部位が両オルガネラの結合膜として分画されること、接触部位の隙間にはAtg14というタンパク質が高密度に存在することも突き止めました」と吉森教授。Atg14はふだんは小胞体膜に一様に分布しているが、オートファジーが誘導されると一点に集合し、そこを起点にオートファーゴソームが作られはじめるという。
さらに吉森教授らは、Atg14を含め、これまでに自らが同定してきたオートファジー関連遺伝子をノックダウン(あるいは、ノックアウト)する実験も行った。一連の結果から、「飢餓信号により、小胞体に存在する特定のタンパク質(stx17)がAtg14と結合して、小胞体とミトコンドリアの接触部位へ移動。移動したAtg14が、膜成分を作るための酵素などを活性化させ、オートファーゴソームを完成させるストーリーが示唆される」とした。
臨床医療においては、オートファジーが、がん、アルツハイマー病などの神経変性疾患、2型糖尿病、感染症など、実にさまざまな疾患に関与することがわかってきている。吉森教授は「すでに、オートファジーを阻害してがんを抑えるなどの治療が模索されています」としたうえで、「今回、生成場所が特定されたことで創薬や治療のターゲットが得られたことになり、今後の研究の進展でさらなるターゲットが得られるでしょう」とコメントする。
今回の成果は、「同系に属さないオルガネラ同士に相互作用はない。とくにミトコンドリアは、他の細胞が寄生してもたらされ、きわめて独立した存在だ」とされる定説を覆し、オルガネラがダイナミックかつ複雑な相互作用をもつことを強く示した。「オートファジーの分子機構と機能を完全に解明することと、成果を創薬につなげることが、私の夢」と話す吉森教授。実現にむけて研究に励む日々が続く。
西村尚子 サイエンスライター