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「アレルギーの火付け役細胞が火消し役細胞に変わるしくみ」を発見!

2013年4月11日

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科
烏山 一 教授

今や、日本人の3割が悩まされているともいわれるスギ花粉症。今年はとくに飛散量が多く、目のかゆみ、鼻水、くしゃみなどで日常生活もままならない人が多いようだ。花粉症のようなアレルギーは、私たちを病原体から守ってくれる免疫系が「本来は無害のもの」を外敵とみなし、過剰に反応することでおきる。アレルギーの発症機序を検討してきた東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科の烏山 一 教授らは、「炎症の火付け役となる細胞」が、まったく逆の「炎症を抑える細胞」へと変化するしくみがあることを突き止めた。

炎症性単球が、好塩基球が産生するIL-4によって、2型マクロファージへと分化するしくみ。 | 拡大する

烏山教授が研究対象としているのは、ダニの死骸やハウスダストなどでおきるアトピー性皮膚炎。皮膚に、かゆみ、かさつき、赤み、しっしんなどがみられ、アレルギー性鼻炎やぜんそくを併発している場合が少なくないとされる。詳細な理由は定かではないが、患者の多くはIgEとよばれる抗体を多く産生しており、この過剰なIgEが、一連のアレルギー反応の引き金になると考えられている。

「自分自身もアレルギーに苦しむ患者なので、大きな関心をもって研究を進めてきました」。そう話す烏山教授は、先天的にIgE抗体を過剰に産生し、ヒトのアトピー性皮膚炎に似た症状を示す遺伝子改変マウスを開発し、このマウスを用いた解析を進めてきた。今回の研究では、皮膚の炎症部位に多く集まる炎症性単球に注目した。

「血中を循環する単球は、皮膚などの末梢組織に入るとマクロファージとよばれる細胞に分化します。マクロファージはM1型とM2型に分けられます。炎症の誘導や悪化に寄与するのはM1型とされてきたので、私たちも炎症性単球がM1型マクロファージに分化し、皮膚のアレルギー炎症反応を増悪させているのだろうと考えていました。ところが実験してみると、まったく逆であることがわかりました」と烏山教授。炎症を引き起こす炎症性単球が、炎症を抑えるM2型マクロファージに分化することがわかったというのである。

今回の実験では、炎症性単球の表面に発現することが知られるCCR2とIL-4受容体の遺伝子を、それぞれ欠損させた2種の遺伝子改変マウスが用いられた。CCR2欠損マウスでは、炎症性単球が皮膚などの組織に侵入できなくなる。一方のIL-4受容体欠損マウスでは、炎症性単球は侵入できるものの、IL-4の作用を受けることができなくなる。

まず、正常なマウスにIgE抗体を注射してアレルギー準備状態を作り出し、さらに、耳の皮内にアレルゲンを投与してアレルギーを誘発した。「アレルゲン投与2日後から皮膚が赤く腫れ、皮膚組織に多くの炎症性単球が入り込んでいることが確認されました。この状態は、ヒトのアトピー性皮膚炎に近いといえます」と烏山教授。

次に、CCR2欠損マウスにも同様の操作を加え、皮膚炎症がどうなるのかを調べた。「私たちは、炎症性単球が組織に侵入できないCCR2欠損マウスでは、皮膚炎症が弱いだろうと推測していました。ところが、結果は全く逆でした。炎症性単球の侵入がないにもかかわらず、炎症がかえってひどくなることがわかったのです」。

そこで、CCR2欠損マウスに「正常マウス由来の炎症性単球」あるいは「IL-4受容体欠損マウス由来の炎症性単球」を注射し、どうなるかを調べてみた。前者の場合は、炎症性単球が皮膚の炎症部位にしみ出して2型マクロファージへと分化し、ひどかった炎症をおさえはじめました。一方、後者の場合には炎症は全く抑制されませんでした」と烏山教授。

一連の結果は、炎症をひきおこす悪玉の免疫細胞(炎症性単球)であっても、環境(IL-4の存在)によって、炎症を抑制する善玉細胞(2型マクロファージ)になりうることを、明確に示したといえる。「皮膚での炎症反応は、もともと外部寄生虫に対する生体防御機構のひとつと考えられます。炎症性細胞が集まると寄生虫は排除されますが、炎症が長く続くと正常な皮膚組織も傷ついてしまいます。そうならないよう、好塩基球が産生するIL-4が、炎症のアクセルをブレーキへと切り替えているのでしょう」。そうコメントする烏山教授は、今回の原理を応用すればアレルギーによる炎症を押さえ込むことも可能だと考え、さらなる研究を続けている。

西村尚子 サイエンスライター

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