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生体に近い3次元構造組織の構築に向け、細胞の積層や集積を制御する

2013年3月28日

大阪大学 大学院 工学研究科 応用化学専攻 分子創成化学
明石 満 教授、松崎 典弥 助教

iPS細胞の登場などで、組織の再生や臓器の機能の代替といった再生医療への注目が集まっている。またヒトの細胞を用いるヒト組織モデルは薬の効果・副作用、毒性の判定、疾患の研究などに使えるとして期待が高い。ただ、細胞は単に並べただけでは培養しても積層しないため、“細胞”だけではなく、“足場となる細胞外マトリックス(ECM)”や “細胞を育てる因子(細胞増殖因子や薬剤など)”が3次元構造組織構築の鍵を握るとされている。

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大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 分子創成化学の明石満教授、松崎典弥助教らの研究グループは、この3次元構造組織の実現に向けて、大きな成果を上げている。

細胞を集めて3次元構造化するには、これまで、生分解性マトリックスによる細胞の凝集、マイクロ流路デバイス上の極細の流路内での積層、ゲル流路での積層といった方法が報告されている。しかし、これらは、特別な流路や材料が必要であったり、手間がかかったりという難点がある。また、組織内に血管やリンパ管などを形成し、精密に細胞の密度や配置をコントロールするのも困難だ。

明石教授と松崎助教らが開発したのは、細胞同士が“心地よく”積み重なることができるよう、生体を模して、ECMとなるタンパク質(フィブロネクチンやゼラチン)を細胞の間にはさむシンプルな方法である(図参照)。

細胞を1層ずつ積み重ねる積層法(図上)では、まず基板上にフィブロネクチンやゼラチンから作製したナノオーダーのECM様の薄膜とインテグリン(細胞とECMを接着させる細胞表面タンパク質)を置き、その上に細胞を載せる。さらに上から薄膜をかぶせ、2層目の細胞を載せる。このように細胞を1層ずつ積み重ねることによって細胞が自発的に3次元構造を作っていく。

このECM様の薄膜は、明石教授が長年研究してきた高分子の交互積層法(layer by layer assembly)にヒントを得て開発された。交互積層法は、正負の電荷で物質同士が引き合う力を利用して、基板上にカチオン性高分子とアニオン性高分子を交互に積層させて薄膜を作るというもの。ほとんどの組織のECMに含まれるフィブロネクチンと、ECMに含まれる他のさまざまなタンパク質を組み合わせて薄膜を作らせる実験を繰り返す中、コラーゲンが変性した分子であるゼラチンがフィブロネクチンとの交互積層で薄膜化できることがわかった。フィブロネクチンとゼラチンは共に負の電荷を持っているが、フィブロネクチンにはコラーゲンが結合するドメインがあり、「水素結合や疎水性相互作用などをメインとしたタンパク質間の分子認識により相互作用していると推察される」と明石教授。この薄膜を用いた細胞積層法では、蛍光染色により、核が重なっていること=細胞が積層していることを確認している。

すでに、ラットの心筋細胞で拍動する5層の心筋組織モデルや筋芽細胞による7層の筋組織モデル、結腸上皮細胞と線維芽細胞による小腸組織モデルなどを構築(図下)。また、これらの組織が1カ月以上培養可能であることも示した。「1週間も経つと死んだ細胞が縮小し、その空間を新しい細胞が埋めていた」と松崎助教。この細胞積層法とインクジェットプリンタを組み合わせ、組織チップを作る技術も研究中だ。

さらに、最近、細胞にフィブロネクチンとゼラチンを順に振りかけ、上澄みを捨てる作業を繰り返しながら培養する細胞集積法も開発した(図中)。これによって、細胞の積層化がスピードアップし、24時間で23層(105μm)まで作製することが可能になった。この集積法では、難治がんとして知られ、間質が治療抵抗性の鍵を握ると考えられている膵臓がんの組織モデルも構築。現在、間葉系幹細胞の分化誘導と3次元構造化にも挑戦している。

松崎助教がリーダーシップを取って進める、この一連の研究は国内44カ所と海外5カ所の研究機関との共同研究で、最先端次世代研究開発支援プロジェクトに選ばれたこともあり、大きな広がりを見せている。

“高分子のアセンブリ”を軸にナノテクノロジーやバイオテクノロジーを組み合わせ、新たな技術を開発する明石研究室。明石教授は、高分子を鋳型にして重合反応を進めるテンプレート重合研究の第一人者として、メタクリル酸メチル(MMA)を交互積層法によって規則的に合成することに成功したほか、多糖類の化学修飾や組織工学などバイオ系の研究にも取り組み、「バイオシステムを学びながら、その知識をものづくりに活かしてきた」と話す。

鹿児島大学勤務時代から手がけているワクチンの開発は、2012年の大阪大学・武田薬品工業の共同研究講座設置によって拍車がかかって来た。これは、生分解性のナノ粒子にウイルスの一部分のタンパク質を取り込み、樹状細胞にナノ粒子ごと食べさせて抗原提示をするという、DDS(drug delivery system)を組み合わせた、安全で新しいワクチンだ。

「工学の成果は世に出なければ意味がない」と言い切る明石教授のもとから、どんな技術や製品が出てくるか、これからが楽しみである。

小島あゆみ サイエンスライター

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