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細胞膜上のタンパク質立体構造解明とそれに基づく創薬を目指すブックマーク

2013年1月10日

名古屋大学 細胞生理学研究センター
藤吉 好則 センター長

図1:名古屋大学 細胞生理学研究センター(CeSPI)での研究のイメージ図。 | 拡大する
図2:電子線結晶学で解析された膜タンパク質の構造。 | 拡大する

昨年4月、名古屋大学に“細胞生理学”という新しい学問分野を標榜する大学直属の細胞生理学研究センター(Cellular and Structural Physiology Institute:CeSPI)が誕生した(図1)。“細胞生理学”はセンター長の藤吉好則教授の命名によるもので、細胞膜上の受容体やイオンチャネル、水チャネル(アクアポリン)などの膜タンパク質やその複合体が担うダイナミックな情報伝達機構を分子レベルで理解する研究を指す。さらに、CeSPIでは基礎生物学のみならず、“タンパク質立体構造に指南された創薬戦略”(structure-guided drug development:SGDD)に則り、創薬の基盤技術や細胞治療、再生医療の研究を推進する。

藤吉センター長は膜タンパク質構造決定の第一人者。京都大学大学院理学研究科で試料を液体ヘリウム温度(4K)にまで冷却し、電子線による試料の損傷を低減して観察する極低温電子顕微鏡を開発、X線構造解析で必要になる3次元結晶を用いなくても、膜タンパク質の構造を脂質膜中に存在する状態のままで高解像度で見ることを可能にした。そして、これまでにバクテリオロドプシン、アクアポリン、アセチルコリン受容体などの構造とその機能を明らかにしている。最近では、胃のプロトンポンプ(H+,K+-ATPase)やギャップ結合チャネル、ナトリウムイオンチャネルなどの構造の詳細を報告した(図2)。

また、10数年前から中枢神経細胞のシナプス形成に関わる分子の研究や創薬の基盤技術の開発なども進めており、藤吉センター長の研究の方向性がCeSPIの設立の際のコンセプトとぴったりと重なっているという。

CeSPIは基礎生物学研究部門、連携創薬研究部門、連携医学研究部門、産学連携部門の4つの部門を持ち、同大大学院創薬科学研究科、同大医学部附属病院や先端医療・臨床研究支援センター、ベンチャー企業との連携を行う。中でも注目されるのが、昨年4月に同時に開設された創薬科学研究科(研究科長:松下裕秀・同大学副総長、工学研究科教授)との連携だ。同研究科は、これまで日本に例がない、創薬だけに絞った薬学系研究科。開設にあたり、もともと名古屋大学が強みをもつ有機化学や生物学の専門家と藤吉センター長ら他大学から移籍したスタッフで1専攻3講座(創薬有機化学、創薬分子構造学、創薬生物科学)8研究分野の陣容を整え、新しいカリキュラムを実施している。

CeSPIや創薬科学研究科には、日本の創薬の弱点とされる、“大学や研究機関で発見された創薬候補となるタンパク質分子などを薬の形にするプロセス”、“特許を押さえ、ビジネス化するプロセス”に携わる人材育成の期待がかかる。実際、CeSPIの研究ターゲットである膜タンパク質を標的分子とする医薬品は2010年の世界の医薬品の売り上げトップ20のうちの12を占め、今後も有望と推測されている。「生体側の疾患に関連する分子の構造が明らかになると、創薬のリード化合物が途中で失敗しても、そのリード化合物の構造を変えることで再度進むことができる。製薬企業との共同研究も積極的に進めたい」(藤吉センター長)。

 

CeSPIでは、1月22日(火)~24日(木)に発足記念の“名古屋シンポジウム Frontiers in Structural Physiology”を開催する。Gタンパク質共役受容体の遺伝子や構造の研究で2012年のノーベル化学賞を受賞したばかりの米国スタンフォード大のBrian Kobilka教授も来日。当日参加も可能だ(詳細はシンポジウムのウェブサイト 参照)。

20代で訪ねた、英国MRC分子生物学研究所(Medical Research Council, Laboratory of Molecular Biology: MRCLMB)で、Max Ferdinand Perutz博士(ヘモグロビンなどのタンパク質の構造解析で1962年にノーベル化学賞を受賞)らが伸び伸びと研究していた姿が忘れられないと話す藤吉センター長。「CeSPIをMRCLMBのように研究者が自由闊達で研究成果も上げられる場所にすることが夢」。英語名CeSPIはギリシャ語のCespitose(植物の“群生”“叢生”)に由来する。研究者やさまざまな研究成果の“群生”が待たれる。

小島あゆみ サイエンスライター

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