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アレルギー抑制の新しい経路を発見。免疫記憶の研究を疾患の解明や治療につなげる

2012年11月22日

千葉大学大学院医学研究院 免疫発生学
中山俊憲教授

TGF-βとアレルゲンによって発現を調節された転写因子Sox4が、Th2細胞の分化を制御する転写因子GATA-3を抑制することで、Th2細胞の増殖を阻害する。また、Sox4はIL-5の産生を抑えることで、すでに存在しているTh2細胞の活性化も抑制する。Sox4はTh2細胞から始まるアレルギーの流れの上流で鍵を握る遺伝子であることがわかった。 | 拡大する

生き物に欠かせない免疫システムは、一方で、アレルギーや自己免疫疾患を引き起こす諸刃の刃だ。

千葉大学大学院医学研究院の中山俊憲教授(免疫発生学)らのグループは、 最近、ヘルパーT細胞の一種でアレルギーに関連するTh2細胞の産生や機能を転写因子Sox4が抑制することを見出した。Sox4が関わるアレルギーの抑制経路はこれまで知られておらず、今後新たな治療法や予防法に結びつくことが期待される。これは科学技術振興機構(JST)の課題解決型基礎研究支援プロジェクトCREST「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」などによる成果だ。

B細胞に抗体を作らせるなど免疫の指令塔として働くヘルパーT細胞は細胞表面にCD4抗原を発現しており、産生するサイトカインの種類によってTh1とTh2、Th17のサブセットがある。アレルギーはその発症や増悪に関連するサイトカインIL-4、IL-5、IL-13を産生するTh2細胞が優位になったときに起こると考えられている。一方、さまざまな組織から産生されるサイトカインTGF-βはT細胞の増殖や活性化を阻害するなどの働きを通じて炎症を抑制し、Th2細胞由来のアレルギーも抑えることが報告されている。しかし、TGF-βがなぜTh2細胞を抑制するのか、そのメカニズムは不明だった。

中山教授らはTh2細胞にTGF-βを作用させることで誘導される遺伝子を検索し、Sox4を同定。アッセイ系でSox4がTh2細胞の増殖や活性化を抑制することを確認した後、卵白アルブミンで喘息を起こすモデルマウスからT細胞特異的にSox4を過剰発現させたトランスジェニックマウスとSox4を欠損したノックアウトマウスを作製、卵白アルブミンを与えて比較したところ、トランスジェニックマウスではアレルギーの症状がほとんど出ず、ノックアウトマウスでは症状が悪化した。

さらに、Sox4はTGF-βによって発現が誘導されるだけでなく、抗原(アレルゲン)の刺激によって発現が抑えられること、またTh2細胞が分化するときに働く転写因子GATA-3にSox4が直接結合してGATA-3の機能を抑制し、Th2細胞の産生を阻害すること、アレルギーを起こすサイトカインIL-5をコードする塩基配列にSox4が結合し、アレルギーの発症を抑えていることもわかった。「Sox4によってTh2細胞の産生や活性を抑えることができれば、ステロイドが効かないような難治性のアレルギーの治療になるかもしれない」と中山教授は話す。

中山教授の主な研究テーマはT細胞の免疫制御や免疫記憶で、これまで免疫機構の基礎研究からアレルギー、自己免疫疾患のメカニズム解明、ワクチン開発のような応用研究までを手がけている。

長年、力を入れているのがNKT細胞(ナチュラルキラーT細胞)を使う、がんのワクチン療法の研究開発。NKT細胞は生物が生まれつき備えている自然免疫を担う細胞で、異物を攻撃し、感染などで得られる獲得免疫に情報を伝え、免疫全体を増強する働きを持つ。ただし、免疫記憶の機能はない。NKT細胞ワクチン療法では、患者さんから血液中の単球とリンパ球のみを採取し、培養して樹状細胞を作り、そこにαガラクトシルセラミドを取り込ませて点滴で患者さんの体内に戻す。このαガラクトシルセラミドを取り込ませた樹状細胞がNKT細胞を活性化するのだ。この治療法には患者さんの身体的な負担は少なく、100人以上の臨床研究から、大きな副作用がないことが明らかになっている。昨年9月に肺がんの治療が、今年9月に頭頸部がんの治療が高度医療として認められ、保険診療と併用できるようになった(いずれも対象は進行あるいは再発して、他の治療法がない患者さん)。「今のところ、がんの進行を一定期間抑える効果はあるが、がんを小さくしたり、消したりするところまでには至っていない。他の治療法との併用、またはもっと早い段階での使用を検討するとともに、個人差が大きい理由などを解析している」と中山教授。ほかに、がん抗原に対する特異的T細胞をワクチン化する研究も進めている。よりよいがんワクチンの開発はライフワークといえそうだ。

中山教授は最近、東京大学医科学研究所の清野宏教授らと、『免疫記憶-ワクチン研究会』を立ち上げた。若手の免疫学の研究者15名を世話人とし、12名の日本人アドバイザーと8名の国際アドバイザーが会を支える。「免疫記憶の研究を盛り上げ、その成果を感染症やがんのワクチン、自己免疫疾患の治療に活かしていくための情報交換の場。とくに若手研究者に国際的な研究者たちの前で発表したり討論したりする機会にしてほしいと考えている」。第1回研究会はオープン参加で2013年1月29日(火)に東京ステーションコンファレンスで開催される。詳細は中山教授の研究室ホームページに掲載予定。

「獲得免疫の根幹となっている免疫記憶は不明な点が多く、アレルギーや自己免疫疾患の解明、ワクチン開発などにまだまだ研究が必要」と中山教授は強調する。これからも若手を育てながらの、幅広い研究が続いていく。

小島あゆみ サイエンスライター

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