天の川銀河の中心部に巨大なブラックホールの種になる星団候補を発見
2012年10月25日
慶應義塾大学物理学科
岡 朋治 准教授


ブラックホールは星の進化の最終形態で、太陽の30倍以上の星が超新星爆発を起こした後に残す芯と考えられている。これまで見つかっているブラックホール候補天体は、数太陽質量のものと、数百万から数十億太陽質量のものの2種類が存在する。巨大なブラックホールは小さなブラックホールの合体により成長したものと推測される。となると、ブラックホールが巨大化する途中には数千から数万太陽質量の中質量ブラックホールを経るのが自然と考えられるが、天の川銀河内ではその中質量ブラックホールの候補天体は見つかっていない。
慶應義塾大学物理学科の岡朋治准教授らの研究チームは、最近、天の川銀河の中心部に中質量ブラックホールが生まれうるような星団候補を発見した(図1)。
これらの星団の存在は、温度50 K 以上、水素分子密度1 万個/ cm3 、大きさが50 光年以下の分子ガス塊として間接的に確認された。このガス塊は、いずれも毎秒100 km 以上の速度で膨張しており、その年齢は6 万年程度の年齢だった。これはこの部分に莫大なエネルギー源がある証拠で、「分子ガスにここまで大きな運動エネルギーを与えうるのは超新星爆発以外は考えられない。それも多数の超新星爆発によって膨張運動が加速されているとみられる」と岡准教授。
4つの高温・高密度分子ガス塊のうちの1つは超新星爆発約200発分に相当するほどの大きなエネルギーを持っており、「これほど超新星爆発が頻発するということは、ここにものすごい数の星が集まっているはず。このガス塊には、数10万から数百万太陽質量の巨大な星団が埋もれていると思われる。これは、天の川銀河の中で発見された最も巨大な星団と同程度かそれ以上のもの」。このような巨大な星団の中心では、星同士の暴走的合体により中質量ブラックホールが形成される可能性が指摘されている。つまり、この高温・高密度分子ガス塊は、中質量のブラックホールが生まれるかもしれない“ブラックホールの種”の環境だったわけだ。
もともと岡准教授らは、天の川銀河の中心核とその周りの分子ガスの分布と運動を広域に調べる目的で、南米チリのアタカマ砂漠にあるASTE望遠鏡(直径10 m)で2005年から2010年までの6年間近く、250時間以上、一酸化炭素分子から放出される波長0.87 mmの電波(345 GHz)のスペクトル線の観察を続けていた。また、1990年代には国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45 m望遠鏡で波長がより長い2.6 mm(115 GHz)の一酸化炭素分子からのスペクトル線を観察していた。今回、この2つのデータの比較から、星団を覆う分子ガスの性質を特定することに成功したのだ。
さらに、この9月には、同じく天の川銀河の中心部に特異な螺旋構造を持つ分子雲を発見、“pigtail”(ぶたのしっぽ)と名付けて公表した(図2)。東大時代の恩師である現・国立天文台チリ観測所の長谷川哲夫所長が先述の国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡のデータ上で見つけ、岡准教授らが追観測を提案、そのデータを詳細に解析した。その結果、pigtail分子雲の根元で運動速度の異なる2つの巨大な分子雲が衝突していることが確認された。それらに挟まれた磁力管が捻られることによって、pigtail分子雲の螺旋状構造ができあがったと推測している。
中学生のときに部活動の途中で明るい流れ星を見て、シューッという音を聞いたのをきっかけに「宇宙を研究しようと決めた」という岡准教授。実際に目で見ることができない宇宙を“電波の目”で見る楽しみを感じながら、これからも地道な観察を続けていく。
小島あゆみ サイエンスライター