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ニューロンから「ただ1本の長い軸索」が作られるしくみにせまる!

2012年11月8日

奈良先端科学技術大学院大学 神経形態形成学研究室
稲垣 直之 准教授

ニューロンが軸索を伸ばすために細胞膜を広げるしくみの概念図。 | 拡大する

脳神経回路の素子となるニューロンは、細胞体の周囲にある突起のうちの1本だけを軸索として伸ばし、互いに結合することでネットワークを作る。時には1メートルにも及ぶ長い軸索を伸ばすには、細胞体の表面積の1万倍もの細胞膜が必要とされるが、どのようにして膜成分を供給しているのかは未解明のままだった。このほど、奈良先端科学技術大学院大学 神経形態形成学教室の稲垣直之 准教授らは、Rabファミリーの一つで、機能がわかっていなかったあるタンパク質が鍵を握ることを明らかにした。

神経ネットワークを作るうえで、ニューロンの軸索形成が重要であるという認識は以前からなされていたものの、その分子メカニズムは謎のままだった。「奈良先端科学技術大学院大学に着任した14年ほど前、貝淵弘三先生(現在 名古屋大学医学部)の研究室で、世界に先駆けて、軸索を形成するCRMP-2というタンパク質の同定に成功しました。その後さらに軸索形成のメカニズム解明を進めたいと思い、軸索内で濃縮されるタンパク質のスクリーニングを行い、Shootin1やSingar1といった新規のタンパク質を同定してきました」と稲垣准教授。

体細胞の元となる幹細胞は球体をしている。ここからニューロンのような特定の形に分化するには、「対称性の破れ」という現象が必要とされる。稲垣准教授らは2010年に、培養ニューロンを用いた実験と数理科学の手法を組み合わせることで、細胞体の突起の1本でのみShootin1の濃縮量が増え、そのほかの突起では消失することで対称性に破れが生じ、ただ1本だけが伸びていくことを突き止めた。

一方のSingar1というタンパク質については、軸索伸長の抑制に寄与することを明らかにした。「Singar1と相互作用するタンパク質にも重要な機能があると考えて探索を進めたところ、機能がわかっていないRab33aを同定することができました。このRab33aの発現と移動のようす、および、軸索内で運ばれる膜成分が先端で細胞膜と融合するようすをライブで可視化したところ、このRab33aに膜拡大の鍵があることがわかったのです」と稲垣准教授。

今回、稲垣准教授らは、膜融合がおきた際に発色するように細工したGFPと、細胞膜の近傍に焦点を絞ることができる全反射顕微鏡を組み合わせ、ラットの海馬由来の培養ニューロンを対象にしたイメージングを行った。「その結果、まず、Rab33aが膜成分の輸送経路に沿って分布することがわかりました。そこで今度は、RNAiを用いてRab33aの発現量を減らしてみました。すると、細胞体から軸索先端へ送られる膜成分の輸送速度が遅くなり、軸索先端における膜成分と細胞膜との融合頻度も減少しました。結果として、軸索の伸びも抑えられました」と稲垣准教授。逆にRab33aを過剰発現させると、ただ1本のはずの軸索が複数できてしまうことも確かめたという。

一連の成果は、Rab33aが、細胞体で作られた膜成分を軸索先端に輸送する機能を担うことを端的に示すものとなった。「謎だった細胞膜拡大の分子メカニズムの一端が明らかになった点は、大きなインパクトだったと思います。将来、Rab33aやShootin1のはたらきを高めることで軸索が再生できれば、脳卒中、神経変性疾患、脊髄損傷などの治療に応用可能でしょう。また、そのための創薬や、神経幹細胞、iPS細胞などによる神経再生医療の基盤技術としても役立つと思います」と稲垣准教授。

軸索が伸びる際には、複数のメカニズムが組み合わさってはたらく必要があるとする稲垣准教授。「たとえば、軸索の進行方向に向かった力の発生も重要でしょう。このようなしくみを一つずつ明らかにしてゆくことが、私たちの目標です」と話す。生物学だけでなく、物理学や数学的な手法も導入し、さらなる研究を続けている。

西村尚子 サイエンスライター

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