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脂肪センサーの遺伝子変異が、肥満の原因となりうることを発見!

2012年4月12日

京都大学大学院薬学研究科 薬理ゲノミクス・ゲノム創薬科学分野
辻本 豪三 教授

変異型のGPR120遺伝子をもつヒトは、正常なヒトよりも脂肪酸の感知機能が低く、高脂肪食により肥満や糖尿病を発症しやすい。 | 拡大する

カロリーの過剰摂取による肥満が増加の一途をたどり、肥満人口が2300万人に達したともいわれる日本。同程度の肥満でも、欧米人は糖尿病、高脂血症、高血圧などの生活習慣病を合併しにくく、日本人は合併しやすいことがわかっており、肥満の日本人の半数は、医師による治療が必要となる「肥満症」だとされる。このほど、京都大学大学院 薬学研究科の辻本豪三教授らは、ある脂肪酸の受容体遺伝子の変異が、食事による肥満と深く関係しうることを突き止めた。

脂肪酸は脂質の構成成分で、炭素鎖に二重結合や三重結合をもつ不飽和脂肪酸ともたない飽和脂肪酸とに大別される。いずれも細胞内でエネルギー源となる物質だが、食事で必要カロリーを超えて摂取すると、肥満、生活習慣病、虚血性心疾患などの原因となる。

脂肪酸に結合する受容体は約6種が知られていたが、最近になって、リガンドが不明の受容体に、栄養性物質を感知するものが多くあるらしいことが指摘されていた。2004年末、辻本教授らは、ゲノムデータ上でのみ知られていたGPR120遺伝子のリガンドが、DHAやEPAなどのω−3脂肪酸であることを突き止めた。

「ω−3脂肪酸は、食事でしか摂取できない必須脂肪酸の一つ。GPR120はその存在を感知し、そのシグナルを脂肪組織における脂肪分化、脂肪代謝の制御などの機構に転換。最終的に脂肪の体内分布、脂肪量などをコントロールしているようです」と辻本教授。

今回、辻本教授は、GPR120 欠損マウスと正常なマウスに、低脂肪食と高脂肪食の両方を与えたうえで、さまざまな生理パラメーターをモニターした。「GPR120 欠損マウスは、肥満、インスリン抵抗性、脂肪肝、高コレステロール血症、肝機能異常など、いわゆる肥満に伴う代謝障害を顕著に示し、糖尿病の前段階や非アルコール性脂肪肝炎の状態になりやすいことがわかりました。ただし、低脂肪食の場合は異常がみられませんでした」と話す。

続いて、ヨーロッパ各国の約2万人の肥満患者の遺伝子情報を用いて、ヒトのGPR120遺伝子の変異と脂肪酸の感知機能について解析。「あるアミノ酸配列に1か所変異のあるGPR120遺伝子をもつ場合には、脂肪酸の感知機能が低下し、高脂肪食を摂取すると正常なヒトよりも約1.6倍肥満になりやすいことがわかりました」辻本教授。

本研究は科学技術振興機構 産学協同シーズイノベーション化事業「育成ステージ」のプロジェクトによるもの。今後は、日本人で同様の点変異をもつ割合、インスリン抵抗性や糖尿病発病との関連などの解明が進み、テーラーメードによる予防や治療法の開発につながることが期待される。辻本教授は「肥満や糖尿病を予防・治療するための科学的根拠に基づく健康プログラムを提唱したい」とし、さらなる研究の展開をはかっている。

西村尚子 サイエンスライター

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