Nature Careers 特集記事

miR-124aが神経細胞の成熟や生存に機能することを証明!

2011年12月8日

財団法人 大阪バイオサイエンス研究所 発生生物学部門
古川 貴久 研究部長

miR-124aは、海馬歯状回顆粒細胞や網膜錐体視細胞の分化・成熟過程において標的遺伝子であるLhx2 をサイレンシングし、神経細胞の正常な成熟と生存に寄与する。 | 拡大する

大規模なゲノム解析が進み、ヒトではタンパク質をコードしないDNA領域の割合がきわめて多く、その大半がマイクロRNA(miRNA)などのnon-coding RNA(ncRNA)に転写されていることがわかっている。20塩基程度のmiRNAは相補的な配列をもつターゲット遺伝子の発現を抑制し、発生、分化、代謝、ウイルス耐性、発がんなどに関与するさまざまな機能を果たすとされる。このほど、財団法人 大阪バイオサイエンス研究所 発生生物学部門の古川貴久 研究部長と佐貫理佳子 研究員らは、中枢神経系で発現するmiR-124a というmiRNAが、神経細胞の成熟に重要な役割を担っていることを突き止めた。

miRNAはウイルスや細菌からヒトに至るさまざまな生物に存在することがわかっており、現在までに153の生物種からなる約2万種が知られている。ヒトでは、約600種のmiRNAが存在すると予想され、そのうちの500種以上が脳で発現しているらしいとの解析結果が報告されている。

古川研究部長らが対象にしたmiR-124aは、2002年に、マウス脳で発現するmiRNAの網羅的な探索により同定された。ヒトとマウスでは、ゲノム上の異なる領域の3か所でコードされており、それぞれ、miR-124a-1、miR-124a-2、miR-124a-3とよばれている。いずれも19〜24塩基の一本鎖RNAで、最近になって、21塩基からなるmiR-124aが最も多く存在するとの報告がなされた。「中枢神経系に特異的に高発現し、線虫からヒトまで、その配列が完全に保存されているのが特徴です。miR-124aについては、神経細胞の誕生に関わるとされる一方で矛盾した報告もあり、miR-124aのノックアウトマウスができれば決着がつくと期待されていました」と古川研究部長。

そこで古川研究部長らは、約4kbにおよぶmiR-124aの遺伝子全体をほぼノックアウトしたマウスを作製し、詳細な機能解析を試みた。「まず、海馬と網膜において発現するはずのmiR-124aがなくなっていることを突き止めました。さらに、海馬や網膜における細胞の誕生は正常なものの、その成熟や生存に明らかな異常がみられることがわかりました。海馬では誕生した歯状回顆粒細胞から伸びる神経繊維(苔状線維)が異常に伸長し、網膜では誕生した錐体視細胞が成熟過程でアポトーシスを引き起こして脱落してしまっていたのです」と古川研究部長。

さらに古川研究部長らは、miR-124aの標的がLhx2という転写因子であることも突き止め、野生型マウスの海馬と網膜でLhx2 を強制発現させると、miR-124aノックアウトマウスと同様の表現型を作り出せることも確かめた。「一連の結果から、miR-124aは神経細胞の誕生よりもむしろ、その成熟や生存にとって重要な役割を担うと結論づけました」と古川研究部長。

ヒトでは、miR-124a-1が8番染色体の短腕に存在し、この領域の欠損や重複によって自閉症やてんかんなどが引き起こされることが知られている。「最近の研究では、脳のミクログリアでもmiR-124aが発現しており、その発現量の低下が多発性硬化症と関連していると報告されています」。そう話す古川研究部長は、miR-124aが脳の高次機能の実現に重要な機能を果たしており、その異常がさまざまな神経系の疾患に関与していると考え、さらなる解析を続けている。

西村尚子 サイエンスライター

「特集記事」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度