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花芽を作るタンパク質、気孔が開くのにも関与していた!

2011年10月13日

名古屋大学大学院 理学研究科
木下 俊則 教授

花成と気孔開口の機能を併せもつFTタンパク質。 | 拡大する

植物の多くは、決まった季節に花を咲かせる。日長に応じて葉で作られる物質(フロリゲン)が、茎の先端(茎頂)に移動することで、花芽の形成(花成)を促進するからである。フロリゲンの実態はFTとよばれるタンパク質。まず1999年に京都大学大学院 生命科学研究科の荒木 崇教授によって遺伝子が同定され、つづいて2007年に、ドイツの研究チームと奈良先端大学の島本 功教授らが、それぞれ独自にフロリゲンとしての機能を証明した。今回、名古屋大学大学院  理学研究科の木下俊則教授は、FTタンパク質に「気孔の開き具合を調整する」という、別の機能があることを世界ではじめて明らかにした。

気孔は、葉の表皮などに存在する小さな孔。一対の孔辺細胞からなり、光合成に必要な二酸化炭素を取り込み、余分な水分や酸素を放出する機能を担っている。気孔は、太陽光に含まれる青色光を感じると開くことが知られていた。

木下教授は、一貫して、気孔の開口や閉鎖のメカニズム解明を続けてきた。これまでに、青色光が、孔辺細胞の青色光受容体(フォトトロピン)に受容されることが引き金となって、最終的に細胞膜のプロトポンプを活性化し、孔を開かせることなどを明らかにしていたが、途中の詳細なシグナル伝達については未解明のままだった。

「これまでは特定の因子に着目した解析を行ってきましたが、それでは詳細について解明できませんでした。そこで、気孔の開きが異常になったシロイヌナズナの変異体を単離する手法に切り替えてみたところ、偶然にもFTタンパク質にたどり着いたのです」と木下教授。

正常なシロイヌナズナは青色光を感じた時にのみに気孔を開くが、突然変異体は青色光がなくても開き続けた。この突然変異体の孔辺細胞を解析したところ、FT遺伝子の発現が異常に亢進していることがわかったという。木下教授は「FTタンパク質に気孔を開かせる機能があり、このタンパク質の過剰生産が気孔を開きっぱなしにしている」と考え、正常なシロイヌナズナの孔辺細胞にFTタンパク質を過剰発現させる実験や、逆にFTタンパク質を欠損させる実験を行ってみた。予想どおり、FTタンパク質の過剰発現では気孔が開きっぱなしになり、欠損させると気孔が開かなくなった。

さらに木下教授は、孔辺細胞でFTタンパク質の発現が高まると細胞膜プロトンポンプが活性化されること、花成においてFTの下流ではたらく転写因子(AP1)が気孔開口にも関わっていることなどを突き止めた。

「今回の成果は、日長に応じて花芽を誘導するFTタンパク質が、気孔開口にも関与していた点でインパクトがあります。同時に、気孔も日長に応じて開きやすさが調節されることを示したことにもなり、気孔の開閉と日長がリンクするという新しい概念をもたらしたといえます」と木下教授。

これまで、フロリゲンとしてのFTタンパク質がわざわざ葉で作られ、茎頂に運ばれる理由がよくわかっていなかった。木下教授は、葉で作られるFTタンパク質には複数の機能があり、花成や気孔の開大はその一部だと考えており、第3の機能についても明らかにしつつあるという。

農業や環境への応用については、「孔辺細胞のFTタンパク質の発現量を調節することで気孔開度を人為的に制御し、より収量の多い農作物や二酸化炭素をよく吸収する植物を作れるようになるかもしれません」とコメントする木下教授。今後は、FTタンパク質から細胞膜プロトンポンプに至る、より下流のシグナル伝達についての解明を急ぎたいとしている。

西村尚子 サイエンスライター

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