地球や地球型惑星の深部構造を理論計算で解明
2011年7月28日
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター
土屋 卓久 教授

地球や惑星の内部はどうなっているのだろう―――愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターの土屋卓久教授は、子どものころから「地球の中」に興味を持っていた。大阪大学理学部4年在学中には阪神・淡路大震災を経験、自然の圧倒的な力を実感して、地球の深部構造とその成り立ちを理論計算で研究することを決めたという。
地球の内部は、酸素、シリコン(ケイ素)、マグネシウム、鉄、アルミニウム、カルシウムなどの元素で6割ほどが占められているとされる。しかし、これらの物質が地球内部と同様の高圧・高温になったときの物性を調べる技術は未だにない。つまり、この分野の研究には理論計算によるシミュレーションは欠かせない。一方で、日本にも世界にも実験系の研究者は多いが、土屋教授のような理論計算の研究者はほとんどいないのが現状だ。
土屋教授は、量子力学に基づく密度汎関数理論(物質にある多数の電子の振る舞いから物性を数値計算で扱うための理論)などを組み合わせ、地球深部の条件での物質の構造などを計算するとともに、固体が溶ける際の熱力学特性を計算する方法、鉄酸化物の結晶の格子振動の計算法なども提案し、大きな成果を上げてきた。「しっかりとした基礎理論と方法論を組み合わせないと信頼性が保てないので、仮定や経験的な概念は慎重に排除する」 (土屋教授)。地球深部物質の計算の基として、原子核の配置やその周囲を取り囲む電子の重なりの予測という細かい計算を緻密に重ねることも多く、場合によっては1年間くらい計算を続けることになる。予測された結果の実験での検証が進んだこと、惑星研究や計算理論の進展、コンピューターの発達などが研究を後押しし、「最近ではみなさんに信頼してもらえるようになった」と笑う。
2009年末には、マントル最深部と外核の境目で地震波の伝わり方が不連続になることから、ハワイの火山やアフリカの大地溝帯の地下では鉄やアルミニウムを多く含む熱い山が核からマントルに向かって突き出しており、逆に日本のようにプレートが移動した地帯の下には沈み込んだ冷たいプレートが核を冷やしているという地球深部プロセスの特徴を、物質科学的に詳しく解析した。このような土屋教授らの研究から、地殻(地表から深さ約10 kmまで)、マントル(約2,890 kmまで)、外核・内核(約6,370 kmまで)とされる構造は、実はきれいな同心円状ではないことがわかってきている。

また、このマントル最深部と外核の境目の温度は従来から2700~4700℃と予測されていたが、土屋教授は約3500℃と計算した。「マントルの下には液化した外核と液化した部分が冷えて固化した内核があるが、我々と海外の研究結果を合わせると、内核の固化は27億年前に起きたと推定できる。この時期は大陸ができ、生物が海から浅い海に進出した時代にあたる。内核の固化によって現在の地球磁場ができ、太陽などからの宇宙線を跳ね返すメカニズムができたとすれば、古生物の進出と整合性があるのではないか」と話す。
近年、次々と発見されているスーパーアース(巨大地球型惑星)の研究にも打ち込んでいる。スーパーアースは地球と似た化学組成を持つが、数倍から10倍程度の質量を持ち、内部の温度や圧力も地球と異なる。今年初めには、数百万気圧下(地球内部は約360万気圧)で、地球型惑星に最も多いシリカ(SiO2 )の結晶構造がどのように変化するか(相転移)を計算し、SiO2 は約600万気圧でリン化二鉄(Fe2 P)と同様の結晶構造を持つ、新しい物質になることを明らかにした。そして、SiO2 の相転移の条件から、スーパーアースのマントルの下には地球とは異なる3層の岩石があると報告した(図)。
一連の研究が評価を受け、今年2月には「日本学術振興会賞」を受賞。「自分もワクワクして、一般の人にも興味を持ってもらえる研究をしたい」という土屋教授。惑星深部のダイナミクスの研究は、未知の材料探索ややがては大地震のメカニズムの解明にもつながるのではと期待されている。土屋教授の今後の研究にも注目が集まる。
*Tsuchiya and Tsuchiya , 1252–1255,January 25, 2011 vol. 108 no. 4, PNAS
小島あゆみ サイエンスライター