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T細胞が胸腺で分化する理由の一端を解明!

2011年4月14日

京都大学大学院医学研究科 免疫細胞生物学
濱崎 洋子 准教授

胸腺中で行われるT細胞の選択と教育のメカニズム。 | 拡大する

私たちは、無数に近い細菌やウイルスなどの外来抗原に対し、1対1で認識し、すみやかに排除できる獲得免疫をもっている。その主力として機能するのは、B細胞とT細胞。どちらも前駆体は骨髄中で産生されるが、B細胞はその後も好中球などとともに骨髄中にとどまり、間葉系細胞のサポートを受けて分化するのに対し、T細胞は例外的に胸腺で分化する。これまで、なぜT細胞だけが「上皮系の組織である胸腺」で分化するのかについては、よくわかっていなかった。このほど、京都大学大学院医学研究科 免疫細胞生物学の湊長博 教授、濱崎洋子 准教授らのグループは、上皮細胞に特異的に発現するあるタンパク質が、T細胞の教育システムに寄与することなどを明らかにした。

B細胞は、抗体(免疫グロブリン)を作り出す細胞である。抗体は、細菌などの抗原と特異的に結合し、すみやかに排除する機能をもつ。一方のT細胞は、B細胞の抗体産生を促したり、ウイルスに感染した細胞を直接駆逐したりする。T細胞については、B細胞と同様に、まずは多様な抗原レセプターをもつ細胞(一つの細胞は1種の抗原レセプターをもつ)がランダムかつ無数に作り出され、その後で、実際に抗原を認識しうるもののみが選択されることが知られていた。

今回、湊長教授らが注目したのは「クローディン」というタンパク質。24のファミリーが知られ、腎臓、肝臓、消化管、皮膚などの上皮細胞にのみ発現し、同じ上皮系組織である胸腺にもみられるという。「本来、クローディンは、たとえば皮膚から水分が漏れ出さないよう、細胞と細胞との間をシールする(タイトジャンクションという)重要な役割を担っている」と濱崎准教授。

当初は、濱崎准教授が、胸腺上皮細胞に発現するクローディンに関する研究を行っていた。その一貫として、クローディンに結合するペプチドを用いて「クローディンを発現する胸腺上皮細胞」を標識したところ、このペプチドが教育を受ける側のT細胞にも反応することがわかり、今回の研究に結びついたという。

一方、胸腺におけるT細胞の発生には、E2Aとよばれる転写因子が関与していることがわかっていた。E2Aは、B細胞と同様のメカニズム(遺伝子再構成)によって、T細胞前駆細胞に多様な抗原レセプターを誘導し、教育するために必要な数の細胞が生存できるようにはたらく。さらにE2Aは、抗原レセプターを獲得した細胞を「自己に強く反応してしまうもの(1)」、「自己に弱く反応するもの(2)」、「自己に全く反応しないもの(3)」に分け、(1)についてはアポトーシスを誘導して消去する、(3)は抗原を認識する能力がない細胞として自滅させる、(2)については病原体などの外来抗原を認識しうる細胞として生き残らせる、といった教育(選択)を行う。つまり、(2)のみがテストに合格するというわけだが、その確率は10%にも満たないという。

一連の解析により濱崎准教授は、「マウスのT細胞が胸腺内で教育を受ける段階で、特異的に、ある特定のクローディン(クローディン4)が発現すること」、「クローディン4の発現はE2Aにより誘導されること」、「試験管内の培養系でクローディン4の発現を抑制させると、T細胞の産生が抑制されること」などを突き止めた。「さらに、クローディン4が、T細胞選択にかかわる抗原レセプターからのシグナルを増強させていることも明らかにできた」と濱崎准教授。こうした結果は、上皮細胞間のシールに特化していると考えられてきたクローディンが、「T 細胞の教育」という全く別の機能を果たすことを強く示唆するものとなった。

「今回の成果は、なぜT細胞だけが上皮組織で分化するのか、という免疫発生学的な疑問に、一つの答えを提示したともいえる」。そう話す濱崎准教授は、現在、クローディン4のノックアウトマウスを用いて、「生体内においてもT細胞の産生が減るのか。T細胞レセプターのレパートリー形成に影響をおよぼすのか」といったことを検証中だという。

「興味深いことに、胸腺細胞におけるクローディン4の発現は、個体が歳をとると減少することもわかってきた。今後は、加齢に伴う胸腺の退縮や免疫力の低下や自己免疫疾患などが、T細胞分化過程におけるクローディン4の発現と関係があるのかどうか、さらなる解析を進めたい」と濱崎准教授。挑戦の日々が続く。

西村尚子 サイエンスライター

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