Nature Careers 特集記事

いくつもの技能の習得には反対

2010年8月5日

Gene Russo
Naturejobs 編集者

Nature 466, 655 (28 July 2010) | 10.1038/nj7306-655a

科学者は自分の研究以外にもさまざまな技能の習得が求められるようになってきたが、これは必ずしも良いことではない、とGene Russo氏は言う。

ルネサンスから400年を経た今日、再び当時のような「万能人」を求める機運が科学界で高まっているようだ。

7月1日、「明日の偉大な科学者」と銘打った会議が開かれた。これはロンドンの英国王立協会が創立350周年を記念してNature 誌と共催したものだが、この会議では、英国全土から集まったポスドクらが、自分たちにとって、また将来の科学者にとって最も重要だと感じている問題について話し合った。定評のある熟年科学者や行政官も参加し、それぞれの意見を述べた。英国の科学技術関係の閣僚や大学の学長、Nature 誌の編集長もパネリストとして参加していた。数人のポスドクは訓練というテーマを取り上げたが、今以上のものを求めてはいなかった。むしろ軽減されることを望んでいた。この若手科学者たちは、「自分の技能の習得」方法を学びたくてミトコンドリアの動きや分子の構成、宇宙の基本的な成り立ちに夢中になっていたわけではないと主張する。ほとんどの科学者が低賃金で長時間労働を強いられているから科学者なのだ、自然界の謎を解き明かす研究者だと言えるのだと。

しかし、彼らはもっと上を目指せと言われることが多い。就職相談員によると、研究者には優れたコミュニケーション能力も必要で、間接的に研究資金を拠出してくれる納税者に自分たちの研究について説明できなければならない。確かにそうした研究の重要性を明確にする必要はある。理想を言えば、科学者はPR能力を持っているべきであり、自分たちの研究成果(基礎や基本的なことも含めて)がいずれ社会に変化をもたらす可能性があることをメディアに簡潔明瞭に話せるようになるべきだろう。少々営業の腕を磨くのも悪くはない。

では、若手科学者は期待にどのように応えればいいのだろう、またどうしたら売れる科学者でいられるのだろう? 英国のビジネス・イノベーション・スキル省長官Adrian Smith氏が王立協会の会議で話していたように、強硬姿勢を貫く有識者もいる。現実は、同氏や他の有識者が言うように、科学者が成功するには、研究以外にもいくつもの技能を身につけなければならないのだ。もし科学的な眼識も補助的なソフトスキル(主として対人的な技能)も持ち合わせていなければ、科学者としてのキャリアは厳しいものになる可能性がある、と有識者たちは言う。だが、冷静になって考えてみよう。

違った見方をする科学者もいる。その中には、王立協会の会議に出席していた一部のポスドクも含まれる。科学者はある訓練コースから、あるいは2つの訓練コースから得られるメリットについて考えるべきだが、絶対に科学をおろそかにしてはいけない、と彼らは言う。研究者は何を置いてもまず自分の研究に集中するべきであり、最終的に自分のキャリアと密接な関係が出てくるかもしれない、あるいは出てこないかもしれない経営管理能力についてはあまり心配する必要はない。科学からそれてしまうと、プロジェクトを完成させ、喉から手が出るほど欲しい論文発表の推薦をもらえる可能性もますます低くなる。結局のところ、研究者はメディア対応ではなく、自分の研究に情熱を注いでいるわけである。将来必要なのは科学をやる人間であり、単にそれを高く売る人間ではない、と「純粋主義者」は言う。

第三の選択肢も提案されている。あるいは上記の結果として出てくるものかもしれないが、それは、いわゆるコミュニケーション能力に欠ける科学者は、そうしたソフトスキルを追求してフラストレーションを溜めないようにすることを検討すべきだということだ。その代わり、コミュニケーション能力に長けた科学者を擁する研究チームを見つければいいのである。こう話すのは、EU経済社会評議会評議員のGerhard Wolf氏。そういうチームであれば、科学の才能が他のメンバーの才能を補えるからだ。あくまで専門家には専門家の、大切な役割があることを忘れてはならない。現代の「巨人」は多様な技能だけでなく、多様なあり方を持つようになるだろう。

「特集記事」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度