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両生類としてはじめてとなる、カエルゲノムを解読!ブックマーク

2010年7月8日

奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科
荻野 肇 特任准教授

ネッタイツメガエル。 | 拡大する

生物は水中から陸上へと進出することで、ニッチを広げ、繁栄を築いてきた。これまで、ゲノム科学によるアプローチでは、魚類とほ乳類のゲノム比較により、四足動物がいかにして四肢や肺呼吸を手に入れたのかといった検討がなされてきたが、魚類とヒトとでは進化的な距離が大きすぎるという問題がつきまとっていた。今回、奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科の荻野 肇 特任准教授を含む米英日仏加の国際共同研究チームは、カエルの全ゲノムを解読することに成功。空白のままになっていた両生類のゲノム情報をもたらした。

国際共同研究チームが対象としたのは、ネッタイツメガエルという種のカエル。ネッタイツメガエルは、生物学の研究材料として長年使われてきたアフリカツメガエルの近縁種にあたるほか、ゲノムが2倍体で扱いやすい、生殖サイクルが3〜4ヶ月と短い、などの特長をもつ。「こうした経緯もあり、2000年にアメリカ、バージニア大学のRobert M. Grainger教授の研究室に留学したことをきっかけに、米英日仏加の国際共同研究チームの立ち上げに加わり、ネッタイツメガエルのゲノム解読プロジェクトを開始した」と荻野特任准教授。

アフリカツメガエルは発生や分化研究のモデル生物として頻用されてきたが、4倍体という巨大なゲノムをもつために、ゲノム解読が困難であった。Grainger研究室において、荻野特任准教授らは2倍体のネッタイツメガエルの近交系を作成することで、解読に適したゲノム試料を手に入れた。そのうえで、ショットガンシークエンス法を用いて解読。今回、ドラフトとして、ゲノムサイズが約1.7Gbp、遺伝子数が2万〜2万1000個との予測値が得られたという。

さらに、得られたゲノム配列を既知のヒト、ニワトリ、魚類(フグ、ゼブラフィッシュ)の配列と比較したところ、次のようなさまざまな新たな知見も得た。「ヒトの疾患に関わる遺伝子2,299個のうちの79%がカエルにも存在し、そこには糖尿病、急性骨髄性白血病、アルコール中毒症、乳児突然死症候群、先天性筋ジストロフィーの原因遺伝子などが含まれる」、「カエルでのみ、特定の遺伝子群(嗅覚受容体、プロトカドヘリン、苦味受容体、フェロモン受容体、初期発生に関わるnodalなど)のコピー数が増幅している」、「カエル、ヒト、ニワトリの間では、染色体上での遺伝子のシンテニーが極めて良く保存されている。とくにヒトの第1染色体のコア領域とそれに対応するカエルのゲノム領域では、ほとんど完全に保存されており、約3億6千万年前の四足動物の祖先種のゲノム構造を残していると考えられる」。

さらに、カエル、ヒト、ニワトリの間では、エンハンサーなどとして機能すると予想される非コード配列が約2万2000か所保存されているものの、カエルと魚類(フグ)の間では、これらのうちの約5000箇所しか保存されていないこともわかったという。この点について荻野特任准教授は、「魚類と四足動物とでは、もっている遺伝子の種類が同じでも、発生過程において、いつ、どこで遺伝子を機能させるかという段取りが異なり、こうしたちがいが魚類と四足動物との差を作り出した可能性が示された」とコメントする。

カエルなどの両生類は、ほ乳類とは異なり、眼の網膜や手足を失っても再び再生させる能力をもっている。「このような両生類だけにみられる再生力の研究を進めることは再生医療研究にも不可欠で、今回の成果はその基盤となりうる。また、カエルは環境汚染によって数が激減しているとされるが、今回の知見は化学物質暴露の影響を検討するうえでも重要な情報となるだろう」と話す荻野特任准教授。新たに両生類のゲノム情報が得られたことで、基礎から応用に至るさまざまな研究が加速すると期待される。

西村尚子 サイエンスライター

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