Nature Careers 特集記事

もう1つの目標

2010年5月13日

Peter Fiske
PAX Water Technologies 最高技術責任者

Nature 465, 123 (05 May 2010) | doi:10.1038/nj7294-123a

常勤職にもう1つ仕事を加えると報酬も多様化する、とPeter Fiske氏は言う。

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50年前の科学者やエンジニアは、自分の職業人生を単一雇用主と歩んでいくのがごく当たり前であった。つまり、彼らはたった1つの職に就いていた。1日が終わると帰宅し、また翌朝職場に戻るというふうに。現在はというと、終身雇用モデルはまれな例外にすぎなくなり、今では進路指導者も、科学者には退職までに6~8種類のまったく異なる職に就くことを念頭に置くよう指導する。

こうした雇用の変化から、研究者には自分の職業を積極的に管理する責任が重くのしかかってきた。科学者は将来の機会創出を雇用主(または、いかに慈悲深い人物であろうと博士アドバイザー)に頼るわけにはいかなくなったのだ。今やうまくキャリアップできるかどうかはますます科学者自身の手に掛かっているのである。 大半の若年科学者は、キャリアアップするには自分で技術論文を執筆するしかないと考えている。確かにこうした生産活動は重要だが、1つの仕事に全エネルギーを集中させてしまうのは最良のやり方とは言えない。実益があり刺激にもなる選択肢が1つあるとすれば、それはわずかな時間をもう1つの専門的活動(自分の常勤職とは異なり、しかもその周辺の仕事)に費やし、新たな機会を開拓して自分の職業を望みの方向に持っていくことである。

副業を選ぶ

一般に、この「副業」には週に数時間余計に費やす必要が出てくるかもしれないが、「もう一つの仕事」といえるほどのウェイトを占めることはめったにない。技術コンサルティング(自分の分野に関する問題について外部の取引先にアドバイスする仕事)は、科学者やエンジニアの副業としては最も一般的なものの1つである。これはすこぶる貴重な体験になる。そうした体験を通して、業界や政府が抱えているさまざまな応用問題にいや応なしに取り組むことになるからだ。これが研究で自分が直面している純粋に科学的な問題の解決を助けてくれる場合もある。

副業で最も大きなマイナス面は時間を取られることである。科学者やエンジニアは正規の仕事だけでも十分に多忙である。若年科学者のアドバイザーは、自分自身もハードスケジュールに追われているため、相談者には研究所の外部で責任を担うことを薦めない可能性もある。

より多様な備えを

科学者には忙しすぎて副業の管理などできないときも確かにある。しかし、外部の専門的な仕事に従事する機会をまったく利用しないとなると、本職のほうが不安定になる。つまり、現在の仕事に全面的に依存してキャリアアップを図ることになる。また、創造力豊かな人の場合には、多少の課外活動は気分転換になり、実際に全体的な生産性を高められる場合もある。わずかな時間の投資なら自分の職業に回復不能の損害をもたらす可能性は低い。それよりも、新たな専門職に就く貴重な機会が得られる可能性のほうがはるかに高い。

科学者やエンジニアの場合、自分は極めて特殊な専門家であり、もっぱら研究を通して社会貢献ができるものと思っているケースが多いが、実は、科学の教育を受けた者は大きな柔軟性を持った問題解決者になり、さまざまな環境や役割に貴重な貢献をする能力を持っているのである。

副業を開拓することは、広い世界で自分の技術的才能を開花させる手段になり、もし研究室に閉じこもっていたら絶対に見つからなかった職に就く機会を照らし出してくれるだろう。

Peter Fiskeは『Put Your Science to Work』(American Geophysical Union刊、2001年)の著者

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