Nature Careers 特集記事

出版の手法とお役所仕事の愚

2010年4月8日

Marwan Azar
Naturejobs ポスドクジャーナル管理者

Nature 464, 799 (31 March 2010) | doi:10.1038/nj7289-799b

論文の出版には煩雑なお役所仕事が避けられない。Marwan Azar 氏がその対処法を示唆。

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科学論文を出版するまでのプロセスには2つの要素がある。最も重要なのは、それに知識の獲得、統合、評価、修正が伴うこと、すなわち、ごく一般に「科学的手法」として知られていることである。しかし、煩雑な手続きや官僚的な問題という目に見えない危険地帯をうまく切り抜けていくことも求められる。

科学者は自然界の発見に対する系統立てたアプローチを誇りにしている。「科学的手法というのは常識の強化である。誤りに固執しないという特に確固たる決意をもって働かせる常識をさらに強化することである」と、1960年にノーベル医学賞を受賞したPeter Medawar氏も記している。この9ヵ月間、私はポスドクとして感染症の研究をしてきたが、その経験から分かったのは、この手法が機能していることである。これは特権だ。しかし、科学の仕事をして論文を書けば報われるのは事実だが、残念ながら、出版というのは、憤慨したくなるようなお役所仕事を経ることなのである。

活気あふれる一流の学術研究所は紛争地帯に例えられることがある。研究プロジェクトをはじめ、作成中の助成金の申請書や論文は、最前線の陣地を確保するために互いに相手を押しのけながら進めていくことも多い。ポスドクはデータの収集、入力や管理に躍起になっているが、同時に完了した研究を分析しつつ論文を執筆している。研究責任者も、資金調達やスタッフの問題、また国内の研究所の枠をはるかに超えた共同研究など、大きな責任を担っている。

研究責任者やポスドクにとっては、そのすべてが狂気の沙汰に見えてくる場合があるが、それでも研究者は、未入力のデータ、書きかけの抄録、返信していないメールが山積みされているにもかかわらず、無秩序な状態を理解することができるし、理解しなければならないのだ。自分の研究成果を、説得力があり、まとまりがあり、人を引き付ける科学論文に変えるために。

この難題に解決策はない。研究所で事を進めるカギは、おそらく質の高いコミュニケーションだろう。何時間もかけてメールをやりとりするよりも、10分間直接顔を付き合わせて話をしたほうが、事態はより効率的に進んでいく。メールのやりとりは大きな誤解を生みやすい。定期的に、また必要に応じて研究会議を開くのも、指導者や他の科学者からコメントやアドバイスをもらう不可欠な手段である。物理的に出席するのが不可能な場合には、ビデオ会議も有益な選択肢になる。ただ、私の経験から分かったのは、作業負荷であらゆるコミュニケーションが負担になっているときには、とにかく辛抱して仕事をすることだ。いくら焦ってパニックを起こしても何にもならない。最後には潮が引き、論文もすぐに片付くようになるものである。

どの研究者も出版への道をしっかりと進んでいきたいと願っている。それは長年の訓練と現場への貢献に対する認識の確証だからである。新進科学者として、私は科学的手法には敬意を表するが、出版業界は官僚的な愚行に満ちていると思っている。科学的手法は特権だが、お役所仕事は難題だ。しかし甘受しなければならないものである。

Marwan Azarはコネティカット州ニューヘイブンのエール大学医学部で感染症を研究するポスドク

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