Nature Careers 特集記事

職業選択という難局

2010年1月21日

Gene Russo
Naturejobs editor

Nature 463, 257 (13 January 2010) | doi:10.1038/nj7278-257a

昨年のポスドクジャーナルの管理者たちはよくあるジレンマに陥っている、とGene Russoは語る。

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英国のパンクロックバンド、ザ・クラッシュのメンバーは1982年に『ステイ・オア・ゴー』という曲を作ったが、そのときには科学者の職業のことなどこれっぽっち考えていなかっただろう。ところが、この歌に込められた心情は世界中の多くの新米科学者たちの心に響くものだ。

いつも決まってこんな疑問が沸いてくる。競争も厳しく、将来の見通しもはっきりしない大学にとどまるべきなのか? それとも、雇用が安定し、働きがいがあり、給与も高い産業界に、おそらくは非伝統的な科学職に思い切って飛び込むべきなのか? 昨年のNaturejobs のポスドクジャーナルにその仕事ぶりや経歴などのキャリアパスを提出してくれたポスドクたちを見ると、見事にこうしたジレンマに陥っていることが分かる(参照 )。この曲はまさに彼らのことを歌っているのである。

もし飛び込んでも苦しいことが待ち受けているだろう

ジャーナルの管理者Joanne Isaac氏はオーストラリアの地とポスドクの職を離れ、夫のポスドクのチャンスを求めて米コロラド州に移った。彼女はなぜポスドクを選ばなかったのか、答えを出せずに苦しんでいた。仕事ではなく子育てに時間の大半を費やしていると、ときどきイライラしてくることがある。だが、フリーランスでサイエンスライターの仕事を始め、空いた時間を子育てに充て、新しく見つけた仕事によって柔軟性が出てきたことをありがたく思うようになった。「月並みな言葉は使いたくないのですが、『灰から再生した不死鳥』というのが、わたしの考え方が変わったことを表現するのにぴったりだと思います」と彼女は述べている。同じような仕事の悩みに直面しているポスドクから何通かメールをもらって励まされた、とIsaacは言う。

もし学にとどまれば偽善になる

一方、Julia Boughner氏とBryan Venters氏は、今でも大学で成功したいという夢にこだわっているが、大学にとどまるのは他の世界に出ていくよりも難しいのではないかと不安を感じている。あまり期待ができないことはBoughner氏も百も承知である。だが若い彼女の家族は、たとえ難しくても成功することを望んでいる。今年は、コンサルティング、科学分野のアウトリーチ活動、フリーランスのサイエンスライターなど、違う仕事のことも考えながらかなりの時間を過ごした。

一方のVenters氏は、自分の研究をミーティングで紹介し、レビューを書き、論文を発表するなど、実りある年だったと考えているものの(研究所での経験も大いに楽しんでいるが)、産業界か政府機関での仕事に気持ちが傾いている。大学の協力的な雰囲気も大切に思っているが、常勤の仕事を望んでいる。大学に就職することを真剣に考えるには、あと3~4年はポスドクとしてやっていく必要があるし、結果として私生活も経済面も犠牲にしなければならないと思っている。

最後までここにいよう

Sam Walcott氏も大学での仕事を続けようと思っているが、彼の応募の道のりは苛立ちの連続であった。努力が完全に無駄だったというわけではない。どのような学部の職を探せばいいか、就職申込書の書き方や面接の受け方は分かったと彼は言う。しかし、待ち望んでいる採用通知をもらわないうちに財源が底を突いてしまうのではないかと心配している。

多くのポスドクはこうした自分探しの旅を共有している。職業を決めると、失望することもあるし、機会が得られることもある。しかし、あらゆる選択枝について詳細に調べることは、いくら神経が疲れようとも成功への道を進む絶好の機会なのである。

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