キャリア実現への弾性
2009年11月12日
Peter Fiske
Nature 462, 122 (04 November 2009) | doi:10.1038/nj7269-122a
特定のテーマの専門家になるだけでは不十分だ。今どきの科学者には自分の知識を応用する力も求められている、とPeter Fiskeは主張。

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キャリアアップには好結果を次から次へと量産していればよい、と頭から決めてかかる者もいるが、そのような「キャリアプロトコール」はけっして安全とはいえない。世界中が昨今のリセッション(景気後退)から何とか脱出しようとしている今ほど、それが当てはまる時代はない。
景気は改善の兆しを見せているものの、あらゆる世代の科学者やエンジニアは、まだ当面はリセッションの影響を感じるはずだ。これまで、科学界は景気低迷の衝撃からは守られていたことが多く、科学やテクノロジーなしに未来はないという確信に支えられている多くの科学者やエンジニアは、今の経済の嵐をやや甘くみているのかもしれない。
しかし、これからはそうはいかない。前回とは異なり、今回のリセッションは予算削減によって高等教育機関を直撃している。アメリカの公立大学は特に影響が大きい。また、研究費への悪影響もいつも以上に長引く可能性がある。米国では景気刺激策による政府支出で科学予算を増やそうという取り組みが進められているが、連邦・州政府では歴史的な巨額財政赤字の処理に追われるものとみられる。政府の裁量支出への削減圧力が強まるはずだ。年金ポートフォリオも大きな損失を出しており、多くのシニア科学者やエンジニアも将来に備えた貯蓄の立て直しにあと数年かかることになろう。
確かに状況は厳しい。ただ、私に言わせれば、これは科学にとって過去50年で最も重要な出来事の1つである。科学者やエンジニアは、従来の「科学」職のモデルがもう時代に合っていないことに気づき始めている。適応能力、起業家精神、そして自立が将来の科学職を特徴づけるのである。これは単なる配置転換どころの騒ぎではなく、キャリア実現に対するアプローチを一変することなのだ。「キャリア実現への弾性」の時代が始まったのである。
Peter Fiske is chief technology officer of PAX Water Technologies in San Rafael, California and author of Put Your Science to WORK