成功に向けたシークエンシング技術
2009年9月3日
Paul Smaglik
Nature 460, 1167 (26 August 2009) | doi:10.1038/nj7259-1167a
Paul Smaglik氏によると、次世代DNAシークエンサーがゲノム学関連の雇用を創出する。

8月の初め、カリフォルニア州スタンフォード大学のバイオエンジニア、Stephen Quake氏と同僚らが、50,000米ドル未満でQuake氏自身のゲノム配列を4週間で決定したことを発表したが、これは医師が自分の診療室で患者のDNAの塩基配列を決定できるようになる日も近いという予測につながるものである(D. Pushkarev , N. Neff and S. Quake Nature Biotechnol. doi:10.1038/nbt.1561; 2009)。ただ、そうした予測を立てるのは時期尚早かもしれない。Quake氏が使用した装置は約100万米ドルと高額で、現在は患者1人のゲノム塩基配列を決定しても臨床的有益性はほとんどない。それでも同グループが報告した次世代シークエンシング技術は、遺伝学やゲノム学の3領域で雇用を後押しする可能性がある。
まず1つは、より低コストで高速の優れたシークエンシング技術の開発が促進される可能性があることだ。米国マサチューセッツ州ケンブリッジにはQuake氏が使用したシークエンシング技術を開発したヘリコス・バイオサイエンシズ社があるが、他にも改良型装置の開発でしのぎを削る企業が出てくるだろう。それはつまり、新たなシークエンサーやバイオインフォマティクス的アプローチの開発やテストを行う能力のある生物医学エンジニアやコンピュータ生物学者の雇用を意味するはずだ。
2つ目は、この技術はバイオインフォマティクスとともにがんなどの多くの疾病を助長する複雑な複数遺伝子変異体を発見するのに使用され、それによって、同じ疾患を持つ個人のゲノム塩基配列をより低コストで、かつ高速に決定することが可能になることである。ゲノムを直接比較し、特定の疾病の原因になる複数の遺伝子や変異体を明らかにするには、バイオインフォマティクスの専門家や生物統計学者も必要になる。 3つ目は、こうした変異体に対する理解が深まれば、医薬品開発もスムーズにオーダーメイド医療の時代に移行することができ、そうなれば、異なる遺伝子変異体を持つ個人に合った薬物療法を行える薬理遺伝学の専門家が求められることである。
もう1つ、ゲノム学関連の雇用を促進するのが助成金である。米国の景気回復法では、高速のシーエクシング装置の購入と優れたバイオインフォマティクスソフトウェアの開発を目的に、すでにエネルギー省の2研究所に助成金を拠出する方針を打ち出している。また、先ごろFrancis Collins氏が米国立衛生研究所(NIH)の所長に任命されたが、これによって、かつてヒトゲノム計画の責任者を務めていた同氏が、最新の高速シークエンシング技術への予算投入を提唱する確固たる地位を獲得することになる。
Paul Smaglikはウィスコンシン州ミルウォーキーを拠点にするフリーランスライター