原則に立ち返る
2009年8月13日
Justin Chakma
Nature 460, 769 (05 August 2009) | doi:10.1038/nj7256-769a
我々がもっと必要としているのは、単なる医師‐科学者ではなく医師‐革新者だ、とJustin Chakmaは言う。

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ハワード・ヒューズ医療研究所(HHMI)と米国医科大学協会(AAMC)委員会の報告書によると、医学進学過程や医学部のカリキュラムは科学知識の進歩に遅れを取ったままである。医師にはもっと基礎科学の教育が必要だ、と著者は主張する。
しかし、これではまだ道半ばである。医学部は病気のメカニズムを理解する臨床医を生産するだけではいけない。さらに急を要するのは、研究結果を臨床現場で使えるように応用できる医師だが、大半の医師‐科学者(MD/PhD)の教育プログラムは、この分野に焦点を絞り切れていない。
一般にMD/PhDコースでは、純粋な臨床医になる医師‐科学者か、あるいは博士課程で教育を受けた生物医学科学者のように基礎科学を専門にする医師‐科学者を養成している。しかし医師‐科学者は、研究所での革新的アイデアを実際に病院で使えるものに形を変える教育を受けなければならない。
医学部の中には、従来型の臨床研究者の教育プログラムを改革し、チーム中心の学際的なアプローチを教育に採り入れているところもある。例えば、カリフォルニア州のスタンフォード医科大学では大学院レベルのコースを開設しているし、アナーバーにあるミシガン大学でも、専門医学実習生(レジデント)や医学部博士課程の学生を対象に、1年間の医療革新研究奨励制度(フェローシップ)を設けている。
カナダのトロント大学の教育プログラムでは、受講生が自分の関心領域以外の臨床専門コースを選択することになっている。チームのメンバーは医師‐指導者を実践することで専門知識を学び、医療現場を見学しながら8週間を病院で過ごす。続いて、市場の重要性、チームの好み、罹患率といった基準に基づいて2~3のプロジェクトに絞り込んでいく。チームが動物実験までたどり着いたり、開発が進めば商業性が見込めるという場合にはヒトを使った臨床試験までたどり着いたりすることも多い。学生は生物医学のエンジニア、起業家などと一緒に仕事をし、外科手術や画像診断、再生医療の進歩に貢献しているのである。
しっかりした基礎科学を学んだ医師は、原型や分析物の背後にある科学と、臨床上のニーズの元になる病気のメカニズムとを調整するにあたって、推進的な役割を担うことができる。発見する医師になる必要はないのである。それは科学者に任せておけばよい。
こうした教育プログラムは、科学を基礎とした体系的なアプローチで革新に挑んでいる。単純な共同作業が意味するのは、科学知識を有する医師をより効果的に配置すること。我々に必要なのは、より多くの医師‐科学者ではなく、より多くの医師‐革新者と医師‐推進者なのである。
Justin Chakmaはカナダ・トロント大学バイオデザイン・トロント創設者