Nature Careers 特集記事

信仰と生命科学の共存

2009年8月6日

Gene Russo
Naturejobs editor

Nature 460, 654 (29 July 2009) | doi:10.1038/nj7255-654a

信仰と科学とは本当に共存し得るのか? Gene Russoがこの矛盾について考える。

先日、米国立衛生研究所(NIH)がFrancis Collins氏を所長に任命したが、これは同研究所の今後の方向性に対する単なる問題提起だけにとどまらない。問題は別のところにある。科学職は信仰とうまく折り合いをつけられるのかという問題である。別の言い方をすると、偉大な科学者でも篤い信仰心を持てるのかということだ。

Collins氏はヒトゲノム解析計画を統率した科学者の1人として有名だ。また、極めて深い信仰心を持つ科学者としての名声も確立している。27歳のときから福音派クリスチャンであるCollins氏は、宗教と科学の両立についての自身の見解を『ゲノムと聖書:科学者、〈神〉について考える(The Language of God: A Scientist Presents Evidence for Belief)』(2008年、NTT出版)の中で詳述している。

矛盾しているという意見に対しては、信仰は科学的法則や手法とまったく問題なく共存していけるという明確な回答を示している。神は単に自然を超越したところに存在するからだというわけだ。例えば、同著でCollins氏は自らを「有神論的進化論」者(「一度進化が始まれば、特別な超自然の介入など一切必要なかった」という説を一部支持する者)と呼んでいる。

ただ、Collins氏によると、有神論的進化論には「進化的説明を否定し、我々の精神性に注意を向ける」という点で人間は特異であるという意味もある。また、Collins氏は2006年にTime誌上で著名な無神論者で進化論者のRichard Dawkins氏と対談した際1、神は「まれにだが、一見超自然的な形で自然界に侵入することを選べる」とも示唆している。これは生物学者からすると奇妙な見方である。

Collins氏のような「有神論的科学者」は果たして稀なのだろうか? 1997年、ジョージア大学歴史学教授のEdward Larson氏とジャーナリストのLarry Withamが調査結果を報告したが、それによると、科学者の39%が神を信じていることが分かった2。全米科学振興協会(AAAS)と米国の非営利調査会社ピュー・リサーチセンターが行った2009年7月9日の調査でも、その数は33%に上った。

しかし2回目の調査で3、Larson氏とWitham氏はやや異なる問いを立てた。一流の科学者にも一般科学者と同じような信仰心があるのか? 2人は全米科学アカデミーの会員をいわゆる「偉大な科学者」サブグループとして利用した。すると、信仰を告白したのは回答者の7%にすぎなかった。

オックスフォード大学の化学者Peter Atkins 氏は、Larson氏とWitham氏の調査結果をこう評価している。「間違いなく科学者だし、信仰心があってもおかしくない。しかし、言葉の最も深い意味を考えると、本当の科学者だとは思わない。科学と神学はそれほど相いれない知の領域なのだ。」ハーバード大学の著名な心理学者Steven Pinker氏は、Collins氏の米国立衛生研究所所長任命を批判しつつ、ほぼ同じ発言をしている4。おそらく2人の考えは正しいのだろう。あるいは、科学者としてのキャリアを向上させつつ、信仰と生命科学のいずれも失墜させずに両立させうる人材となると、本当に稀だということになるのだろう。

「特集記事」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度