景気低迷に直面するポスドク
2009年6月18日
Bart Noordam & Patricia Gosling
Nature 459, 876 (10 June 2009) | doi:10.1038/nj7248-876a
先行きは悲観的だが、科学職に就くタイミングとしては悪くない。頑張れ、とBart Noordam とPatricia Gosling がアドバイス。
大学院の教育課程を今年終える多くの学生は、不安感を抱きながらポスドク職と向き合うことになる。つい最近までは次のステップについて深く考えたこともないだろう。チャンスはいくらでもあるように見えたからだ。
ところが、世界的な金融危機が深刻さを増してきた今、就職先がなくなりつつあるのである。ニュース記事が伝える雇用の削減や余剰人員の一時解雇の数値を見ると、大学院生は1年前のキャリアプランなどどこへやら、パニックに陥り、どんな求人にでも飛びついてしまうという事態が起こりかねない状態だ。
だが、新米の博士はまさにこれから長いキャリアがスタートするのだということを肝に銘じておくべきである。利用できるさまざまなオプションの是非を検討してみることが必要だ。パニックに陥る必要はない。
重要なのは、大学院生の就職見通しに対する当面の評価を左右する大きなトレンドを理解することである。国立の研究所や大学といった(準)政府機関は、現在の経済状況の直接的な影響を受けていない。経済活動を持続させるため、大半の政府はできるかぎり公的機関の雇用を維持し、守ろうと努力するはずだ。したがって、短期的には博士研究員職の多数の欠員(博士号修得後の最初のステップ)が大幅に縮小することはなさそうだ。
さらに、多くの地域では自然科学の教育を受けた大学院生の長期的な雇用見通しが依然として高い。オランダを見てみよう。昨年10月にTechnomonitor(http://tinyurl.com/l63k6k)に発表された記事では、向こう5年の間に自然科学の教育を受けた大学等の研究者が新たに推定36,000人必要となると報告されている。この報告は、オランダ・マーストリヒト大学の教育および労働市場研究センターの調査データをベースにしたもの。この新たな被雇用者の半数が既存の被雇用者(退職等の理由で離職)に代わることになるわけだが、残りの半数は予想される成長に基づいた需要を満たすことが求められる。しかし、データからは、この欠員を埋めるのに採用できる大学院生はわずか24,000人だということが分かる。
「景気は循環しており、経済危機や景気後退は7~10年周期でやって来る。最初に出会う危機のほうが楽に切り抜けられるはず」
ドイツ経済技術省の委託を受けて行われた最近の研究から、特殊技能を有する若者は、数学や自然科学、テクノロジーといったアカデミックな教育を十分に受けていないことが分かった。またこの研究では、2014年までにドイツでは最高95,000人のエンジニアと135,000人の科学者が足りなくなると見積もっている。
続いて、長期的に見ると、オランダの数字は2人当たりの求人数が3つあることを示している。また、オランダでもドイツでも、現在の労働人口で推定される将来の欠員を埋めるのは無理そうだ。したがって、自然科学の教育を受けているというのは好材料である。確か、高い技能を有する労働力の不足は、金融危機よりも経済活動に対して大きな長期的脅威になる、と考える一流のエコノミストもいる。
Bart Noordam、Patricia Gosling Bart Noordamはアムステルダム大学理学部学部長。Patricia Goslingはスイス・ツークのアムジェン社欧州本部シニアマネジャー。