Nature Careers 特集記事

女性は専門家による審査で不利なのか?

2009年6月11日

Herbert Marsh & Lutz Bornmann

Nature 459, 602 (27 May 2009) | doi:10.1038/nj7246-602a

Herbert MarshとLutz Bornmannによれば、詳細な共同分析の結果、女性が不利だという認識には根拠がない。

専門家による審査では何が科学において有益なのかを評価するが、それにはバイアスが掛かっているとして広く批判されている。そのバイアスの1つだとされているのが性別である。ところが、そのバイアスを示す証拠が矛盾をはらんでいるのである。2007年のメタアナリシス(L. Bornmann et al. J. Informet. 1, 226–238; 2007、Nature 445, 566; 2007も参照)によると、専門家による審査では女性が不利であるという結論が下された。この研究にはこうした問題に関する有名な調査がすべて盛り込まれていたから、これが最終的な結論だと考えられた。

しかし、昨年発表された研究(H. W. Marsh et al. Am. Psychol. 63, 160–168; 2008)は、これとは相反する結果を示している。これはオーストラリア研究会議(ARC)のデータをベースにした最も包括的なプライマリーリサーチ(一次調査)である(6,233人の外部評価者があらゆる研究分野から提出された2,331件の申請書類を10,023件レビューしたもの)。研究では、審査員の専門分野や性別、国籍には関係なく、また審査員が助成組織の委員会から選出された人物であれ応募者が選んだ人物であれ、応募者の性別が専門家の審査結果に影響を及ぼすことはなかったとしている。

では、なぜこの2つの研究では相反する結果が出たのだろう? それを突き止めるため、双方の調査チームは共同でデータを再分析し、当初のメタアナリシスを拡張した。我々は8ヵ国から提出された353,725件の申請書類が示す66通りの結果に対し、説得力のある新たな統計学的アプローチを用いた。この拡張した研究(Review of Educational Research誌で発表する)では、グラント申請者の性別が専門家による申請書類の審査に何の影響も及ぼしていないことが分かった。これは国やメタ分析に含まれる研究の発表年、物理科学や人文科学などあらゆる専門分野に関係なく、すべてにわたって見られた結果である。

しかし研究からは、フェローシップの申請書類については、わずかながら(統計学的には有意だが)、26の審査結果で性差が男性に有利に働いていることが明らかになった。ただ分析では、このフェローシップの結果は個々の研究間で大きく異なっており、一般化が困難であることを示していた。こうした差が生じるのは、フェローシップの申請者に確固たる研究実績がない場合があるからだ、と我々は指摘した。判断の根拠にする確たる証拠がないことから、審査をする専門家は性別といった無意味な特性に左右されている可能性があるのである。

少なくともグラント申請書類については、各調査チームの共著者全員が認めているように、申請者の性別が専門家の審査結果に影響を及ぼすことはなく、この所見は揺るぎないもので、広く一般化できるものであるとの確固たる証拠が出ている。

Herbert Marshは英国オックスフォード大学教育学教授。Lutz Bornmannはスイス・チューリッヒにあるETH大学博士課程学生。

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