日本のポスドク、別の道にも前向き
2009年4月30日
Nature 458, 1062 (22 April 2009) | doi:10.1038/nj7241-1062a
三須敏幸、袰岩晶
三須敏幸氏と袰岩晶氏によると、政府と大学は研究職以外の職にテコ入れし、多様なスキルを持った人材を育成すべき。
日本のポスドクは現在、大学や公的機関であれ民間企業であれ、正規雇用の職を探すのに苦労している。ポスドクのキャリア志向を見極めるべく、2005年に文部科学省・科学技術政策研究所(NISTEP)が行った調査では、非伝統的な科学関連職に対するポスドクの意識や就職願望について詳細に調べた(NISTEP調査資料161)。調査対象者は日本のポスドクの約10%、そのうち有効回答率は66%であった。
ポスドクになった理由は? 回答者1,035人のうち73%が、現職を選択した理由として、研究を続けたいから、あるいは研究者になりたいからと回答している。他に就職先がなかったからポスドクになった、という回答も1割以上あった。予想どおり、調査対象者の約4分の3が大学や公的機関の研究者になることを「強く希望する」と回答しているが、民間企業で研究者やエンジニアとして働くことに肯定的な者も半数以上いた。4年前に行った調査(NISTEP調査資料86)では、民間企業への就職を考えると回答した者がわずか4分の1にすぎなかったことから、これは民間企業で働くことに対するポスドクの認識が大きく変化していることをうかがわせるものである。
また、職業へのニーズを見極めるため、ポスドクとしての主な研究業務の他に、どのような仕事をしたいかについても質問したところ、「教職」という回答が4分の1以上、「民間企業での研究開発(R&D)業務」「現在の研究テーマとは異なる研究活動」という回答が5分の1程度あった。現在の研究とは異なる活動を「特に希望しない」という回答は比較的少なく、13%にとどまった。
さらに、配偶者/パートナーの仕事の状況に合わせた職探しで苦労しているカップルの数についても調査したところ、配偶者/パートナーの仕事に合わせて応募範囲を限定すると回答したのは、既婚女性の44%。一方、このように応募範囲を限定すると回答した既婚男性は11%であった。女性のポスドクの4分の1以上は「配偶者/パートナーとの別居もやむを得ない」と答えている。女性のポスドクにとって、家族への配慮が就職活動の重要なポイントになっているのは間違いない。
我々の調査からは、技能の向上やキャリア開発の手段として別のキャリアパスに前向きなポスドク像が浮き彫りになった。こうした観点から、政府も支援に乗り出している。2006年には文部科学省が「科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業」をスタートさせ、ポスドクや博士課程の大学院生のキャリア選択肢の拡大を支援するため、12の研究機関を採択した。
思い込みを捨て、多様なスキルを身につけることが重要だ。日本のポスドクもはっきりとそれに気づき始めている。今後も引き続き、ポスドクの意識(とその将来の計画)をモニターしていく必要があるだろう。
三須敏幸氏は文部科学省科学技術政策研究所 第1調査研究グループ上席研究官、袰岩晶氏は同研究所第1調査研究グループ客員研究官