景気後退期に期待すること
2009年2月12日
Gene Russo
Naturejobs editor
Nature 457, 749 (04 February 2009) | doi:10.1038/nj7230-749a
大不況は科学者にとってチャンスの扉か?
世界的な景気後退は、一流の科学者に対する需要の高まりという妙な副産物を生み出しているようだ。少なくとも短期的にはそうだ。米国では、国立衛生研究所(NIH)や国立科学財団(NSF)に数十億ドルを供与する景気刺激策の取りまとめに向かって議員たちが動いている(Nature 457, 623; 2009を参照)。また中国では、海外で活躍する一流の中国人教授を中国本土に呼び戻そうと、政府が1人当たり100万人民元(146,000米ドル)を支給するという政策を実施(Nature 457, 522; 2009を参照)。大学教育を受けた中国人学生が厳しさを増す労働市場で苦戦している今、こうした政策が打ち出されるのは単なる偶然の一致ではなさそうだ。
各国政府は現在、将来を見据えて揺るぎない投資基盤を築く上で、科学者の活躍に期待している。科学職に従事する一流の人材は、革新、経済成長、最先端産業への確かな道だと考えられている。景気刺激策の他にも、バラク・オバマ米大統領は「グリーンジョブ」創出への熱い思いを語っている。再生可能エネルギーへの投資ために、年間数十億ドル規模の予算を別枠で計上したい考えだ。賃金も高く、外部委託にも向かないグリーンジョブを500万人規模で創出する、というこの構想が実現できれば、オバマ大統領いわく、海外の石油に依存しない国づくりへの大きな力となるだろう。
投資額が大規模かつ巨額に上るとはいえ、この別枠の予算が直接科学者の利益になるわけではなく、一部の科学者だけが有利になる状況が生まれてこよう(Nature 457, 750-751; 2009を参照)。例えば米国では、予算の大半がインフラ整備に充てられる。また、いかに多額の投資であろうと、短期的な資金注入では今後数十年間にわたって科学の成功が続くとは限らない。まして政府系研究機関に持続可能な予算が配分されるとも限らない。
しかし、チャンスの扉は開かれつつある。研究者の中には、景気浮揚の立役者として超エリートの科学者やエンジニアを求める政府の恩恵に浴する者も出てくるだろう。また、仮に資金が科学者に、とくに若い研究者に回ってくれば、グラントを獲得し、科学者として自立し、将来の自分の地位を確立する(一時的ではあるが)より大きなチャンスが巡ってくるかもしれない。