Nature Careers 特集記事

新政権下で米国の科学はどうなるか

2009年2月5日

Paul Smaglik
Moderator of the Naturejobs

Nature 457, 623 (28 January 2009) | doi:10.1038/nj7229-623a

アメリカのバラク・オバマ新大統領は、就任演説で一言、「科学を正当な地位に復権させる」と約束した。これを受け、連邦の科学予算が大幅に増えることへの期待が高まっている。

上の一言は、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)の研究予算を抑制し、地球温暖化にも真剣に取り組もうとしなかったジョージ・W・ブッシュ前大統領に対する叱責と受け取れよう。あるいはここ数年、国立衛生研究所(NIH)や国立科学財団(NSF)といった政府系機関の予算がどちらかと言うと横ばいに推移していたが、オバマの言葉はそれに歯止めをかけようという意思表示とも取れる。

この演説が行われたのは、米下院予算委員会が景気刺激策の一環として科学予算も拡大すると発言してから1週間後のこと。この計画では、NIH予算は2年間で35億ドル、NSFは30億ドル上乗せされることになる(Nature 457, 364–365;2009を参照)。もちろん、期待される2月の採決でこの予算が通っても、資金注入がどれだけ個々の科学者を利することになるかはまったく不透明だ。NIH予算は1999年から2003年の間に倍増し、年間280億ドルを超えているが、それでも全員が恩恵に浴したわけではない。5年周期の半ばを過ぎたところで、グラント申請者の中には思ったほどの成果を上げられない者もいる。予算の大半はすでに割り振られていたからだ。予算拡大の対象は、主要な共同研究、大規模な科学プログラム、そして基礎科学から応用科学への転換にも及んだ。2001年9月11日の同時多発テロ事件以降、NIH予算は基礎研究よりもバイオ防衛研究に重点的に投入され、2003年には15億ドルに達した。NIHのグラント申請者の獲得率は2001年には33%だったのが、2006年には20%に低下し、駆け出しのポスドクへの給付金は横ばいである。

予算委員会では、グラント給付への投資はその他の雇用を創出する(景気刺激策の主要目標)と話している。しかし、数々の疑問が残る。1つは、実際にどの程度の資金が個々のグラントや研究奨学金プログラムに流れてくるのかということだ。おそらく最も重要なのは、この投資が科学と経済の両方にプラスの効果をもたらすかどうかではなく、この予期せぬ恩恵が長期的に科学研究を支えていけるのかという問題であろう。

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