米国と欧州は間もなくビザの割り当てを緩和するも、不況がそのプラス効果を台無しに?
2008年12月25日
Paul Smaglik
Moderator of the Naturejobs
Nature 456, 1005 (17 December 2008) | 10.1038/nj7224-1005a
米大統領選挙戦は終わったが、今後はビザの嵐が吹き荒れるかもしれない。基本的に、科学者はその恩恵に浴する可能性がある。今月初旬、米次期大統領Barack Obama氏は、アリゾナ州知事のJanet Napolitano氏を市民権やビザの監督官庁である米国土安全保障省長官に指名した。Napolitano氏はH1-Bビザの発給件数増大を断固として支持している。H1-Bビザとは、外国人のIT技術専門家、研究者、その他高度な技術を持つ労働者を雇用する際に発給されるものである。
H1-Bビザは米国人労働者から職を奪う、という批判の声もあるが、支持者によれば、H1-Bビザによって、米国では得られない資格労働者の雇用が促進されるという。おそらくNapolitano氏は、新たなポストに就任する前に両サイドからの問題提起に直面するだろう。すでに同氏は、米国の大学を卒業し、保安審査に合格した外国人へのグリーンカード(永住権)発給を支持することを正式に表明している。それによって、彼らにはH1-Bビザ取得を申請する必要がなくなるというわけだ。もしNapolitano氏が指名されても、Napolitano氏ではなく、議会がH1-Bビザの発給件数の上限を設けることになる。現在は65,000人までである(+米国の大学院学位取得者20,000人)。しかし、同氏はさらに上限を高く設定し、全体的な改革を推進する可能性もある。
一方、欧州連合(EU)は独自のH1-Bビザ構想に移行しつつある。「ブルーカード」が発給されれば、高度の熟練労働者とその家族は3~5年間EUに居住する権利が得られるが、その後も永住する機会が与えられる。欧州議会は先月、この計画を承認し、加盟国は来年早々にその検討に入ることになった。EUに熟練外国人の労働人口を増やすのが狙いである。欧州議会議員のEwa Klamt氏によると、現在米国では外国人労働者が就業人口の3.2%、カナダでは7.3%、オーストラリアでは9.9%だが、EUでは1.7%にとどまっている。
しかし、雇用が引き続き縮小する中、最近では当然チャンスも半減している。今月初めに発表された労働省の報告書によると、米国の失業率は6.7%と、15年ぶりの高水準である。残念ながら、ビザに関する措置には不運な皮肉が付き物だ。つまり、欧米諸国が多くの外国人研究者に門戸を開くのは、そうした外国人向けの職がないときなのだ。