Nature Careers 特集記事

ゲノムワイドなSNPs解析でみえてきた、日本人の特徴

2008年12月11日

理化学研究所 ゲノム医科学研究センター 統計解析・技術開発グループ
鎌谷 直之 グループディレクター

病気のかかりやすさや、薬の効き方などと、遺伝子との関係を調べる際に、有力な手がかりとなるSNPs(一塩基多型)の解析。膨大な数のSNPsの中から、ある特定の疾患や薬物応答との関係をあぶり出すには、対象とする集団のゲノム構造の解析が不可欠となる。理化学研究所(以下、理研) ゲノム医科学研究センター 統計解析・技術開発グループの鎌谷直之グループディレクター(以下、GD)らは、すでに収集されていた7000人分のゲノムデータを解析することで、日本人のゲノムの特徴を明らかにした。

この解析は、文部科学省が進め、理研 遺伝子多型センターの中村祐輔チームリーダー(以下、TL)がプロジェクトリーダーを務める「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」のために採集された患者のゲノムデータから、日本各地に住み(ただし中国・四国地方のサンプルは無し)、特定の35種の疾患のいずれかにかかっている7000人を選び出して行われたもの。オーダーメイド医療実現化プロジェクトでは、47疾患、30万人の患者を対象にした大規模な遺伝子解析を行うことが目的とされている。

鎌谷GDらは、上記の7000人以外に、国際ハップマッププロジェクトで使われた世界の4つの集団のSNPsデータ(西・北欧系ユタ州住民60人、ナイジェリアのヨルバ族60人、東京在住の日本人45人、北京在住の中国人漢民族45人の計210人)を加え、ゲノム中の14万か所のSNPsについて、各集団にどのような特徴がみられるかを統計学の手法によって調べた。その結果、日本人は、本州の住人が属する「本土クラスター」と、多くの沖縄の住人が属する「琉球クラスター」に明確に分かれることがわかった。とくに、3番染色体にある組織適合抗原(HLA)の遺伝子に大きなちがいがみられ、過去の何らかの感染症の有無が原因ではないかとされた。

日本人の起源については、「もともと縄文系の人々が住んでいた日本に、後から大陸経由で弥生人がやってきたが、沖縄や北海道(アイヌ)の人々は本土の人々とあまり交流がなかったために異なる集団となった」との二重構造説が提唱されてきたが、今回の結果は、この説に矛盾しないものであるという。

さらに、髪の毛の太さに関わる遺伝子(EDAR)と、耳あかのタイプと関わる遺伝子(ABCC11)の頻度にも、本土か沖縄かのクラスターによる大きなちがいがみられることがわかった。以前より、この二つの遺伝子にはSNPが存在することが知られていたが、新たに、その頻度が本土と琉球で、アミノ酸を変化させるSNPとしては、最も大きく異なっていることが明らかにされた。今後、東アジアや東南アジアの人々のデータを集めて解析することで、さらに詳細な人類遺伝学的考察が期待できるという。

医師でもある鎌谷GDは、兼任していた東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター所長の職を約半年前に辞し、現在は自らも立ち上げたバイオベンチャーの情報解析研究所所長を兼任している。医師から技術開発への転向を、「SNPの大規模解析などで得られる情報を、数理統計学を用いて正しく解析すべきだが、日本には人材がいないため」と説明し、理研の中村TLとともに、次世代シーケンサーが生み出す大量のデータを適切に解析する技術も開発中だという。

今回の成果について、「集団ごとのゲノムワイドな情報がないと、どういう疾患が、どの集団に多いかといったことが解明できないということがわかった」とし、「得られたデータは、日本人のゲノムや遺伝子を研究する際の基礎的なデータを提供しうるものになる」と話す鎌谷GD。すでに、日本人は白人にくらべて遺伝的にインスリンの産生能が低いことや、各国の集団によって太り方にちがいがある、といったことが知られはじめている。今後は、今回の成果に病気や薬ごとのデータを加えて解析を進めることで、日本人のための「ピンポイントな医療」が早急に実現することが望まれる。

西村尚子 サイエンスライター

「特集記事」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度