Nature Careers 特集記事

コンピュータゲームが研究者に大学院生の役を演じる機会を提供

2008年12月4日

Paul Smaglik
Moderator of the Naturejobs

Nature 456, 539 (26 November 2008) | 10.1038/nj7221-539a

「落ち着くんだ。今やらなければならないのは、とにかく単語をたくさん並べることだ。そうすれば大丈夫。まだ1日中あるじゃないか。といっても、もう正午だが」。Violetはこうしてスタートする。これはテキストベースの対話型コンピュータゲームで、プレーヤーに、論文の提出期限に追われてストレスがたまっている大学院生や、友人関係を断ち切るぞ(そして大陸から逃げ出すぞ)と脅しをかける悩める相棒の役を演じてもらうというもの。

VioletはZorkの学生版といえるだろう。Zorkとは、マサチューセッツ工科大学のコンピュータ科学者のグループが1977年から1979年にかけて開発した対話型のアドベンチャーゲームで、この種のものとしては初の人気作品となった。Zorkは目を見張るほど革新的だが、同時にとんでもない時間の無駄だとも考えられていた。第14回年間対話型アドベンチャーゲームのコンペで受賞したVioletにも同じことが言える。Zorkが革新的だといわれたのは、プレーヤーが文章をタイプ入力してナビゲートできる架空の世界を創造したからである。Violetはイリノイ州エバンストンにあるノースウェスタン大学の社会学教授、Jeremy Freese氏の作品だが、プレーヤーが日常的な役回りを演じ、ありふれた現実世界の苛立ちに悩まされるという意味でユニークである。

では、Violetに効用はあるのだろうか? 米国の高等教育機関向け新聞The Chronicle of Higher Education(http://chronicle.com)が後援する教育工学のブログでは、あるコメンテーターが魅力は感じられないと述べている。「何ともうんざりさせる発想だ。ビデオゲームは論文やリサーチをしているときの気分転換になるが、今や私たちの論文やリサーチを題材にしたビデオゲームが登場してしまった。逃避するためにビデオゲームをやるというオプションはあるのだろうか?」

おそらくVioletの一番の顧客は、自分の論文の提出期限が近づいている大学院生ではなく、自分が本当に「その世界に進みたいのか」の判断材料にするためにゲームをする将来有望な大学生かもしれない。また、現実把握ツールとして、さらには一種の大学院生の感情移入ツールとして、Violetで大学の経営者、部門長、学長、学部長の役を演じてもらうことも必要だろう。

より多くの人がゲームにアクセスしてくれるようになるには、ある変更が必要かもしれない。それは対話型ゲームの元祖だけでなく、愛情あふれる潜在的なゲームオタクにも敬意を表するものである。すぐにある名前が浮かんでくるはずだ。間抜けな(Dork)……。

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